外科・消化器外科 
-疾患と治療-

疾患別の治療1 -消化器の悪性疾患-

■ 大腸がん 

(結腸がん・直腸がん)

大腸がん(結腸がん・直腸がん)の 治療方法には、1) 内視鏡的治療、2) 手術療法、3) 化学療法、4) 放射線療法、5) 緩和医療などがあります。大腸がんの治療の原則は明確で、「限局している病変は切除する」、これに尽きます。当科では大腸がん治療ガイドラインに沿って、以下のごとく治療を行っています。

 

1) 内視鏡的治療 : 粘膜もしくは浅く粘膜下層に浸潤した早期の大腸がんでは内視鏡的に切除できればそれが一番侵襲の軽い良い治療です。粘膜切除(EMR)のみならず、積極的に粘膜下層剥離術(ESD)を行っています。切除した病変を顕微鏡で調べて、取りきれているかどうか、粘膜下層に浸潤した早期の大腸がんの場合は追加手術が必要かどうかを検討します。

2) 手術療法 : 主に開腹手術と腹腔鏡手術がありますが、がんの進行度や病態に応じて最適な方法を選択しています。腹腔鏡手術は開腹手術に比べて傷が小さく、身体への負担が少ないため早期の退院や社会復帰が可能なことから最近では増加傾向ですが、すべての大腸がんに行うことはできません。肛門に近い直腸がんでは、以前なら人工肛門を造らざるを得ない状態でも、できる限り大腸と肛門をつないで肛門を温存する手術を行っています。

3) 化学療法 : 抗がん剤を用いて行う治療法のことです。その目的から、1.高度に進行した大腸がんに対して手術前に縮小を期待して行う、2.手術後の再発を予防するため、3.再発や転移した大腸がんに対して 、の3つに分かれます。また抗がん剤には内服と点滴(全身医療)の2つがありますが、点滴の方が高い効果があり、そして通常は複数の抗がん剤を組み合わせて治療します。再発・転移した大腸がんには、近年開発されたアバスチン、セツキシマブ、パニツムマブ等の分子標的薬を併用します。

4) 放射線療法 : 主に再発病変に対して化学療法と併用した集学的治療として行われます。 少数ですが重粒子線治療の経験もあります。

5) 緩和医療 : 緩和ケアチーム(医師、看護師、薬剤師、理学療法士、栄養士、など多職種からなるチーム)と連携して、 身体的、精神的苦痛を和らげるための治療を行います。

 

大腸がん治療でもっとも特筆すべきことは、たとえ再発・転移しても、「限局している病変は切除する」方針で長期生存が期待できることです。肺転移は限られた回数しか手術できませんが、肝転移では繰り返し切除を行って治癒を目指します。患者さんと協力して、手術、化学療法や放射線療法を組み合わせて、あらゆる大腸がんに対して粘り強い治療を行ってきました(再発・転移大腸がんに対する治療、で詳述 )。大切なことはあきらめない気持ちです。 これらの治療を安全かつ適切に行うには高度な技術と専門知識が要求されます。当科には5月から日本大腸肛門病学会専門医が常勤しておりますので、大腸がんに関してご不明点がありましたら、いつでも気軽にご相談ください。

 

大腸がんについてのまとめは、西和医療センター情報誌

復刻ファミーユ第14号令和元年11月号

をご参照ください。

 

■ 胃がん

胃がん治療ガイドラインに準じて治療を行っています。早期胃がんには消化器内科により究極の低侵襲治療である内視鏡的切除(ESD)が行われていますが、少し進行した胃がんにはほぼ全例に腹腔鏡手術を行っています。腹腔鏡下胃全摘術は高度な技術を要しますが、経験を積んだスタッフにより安全に手術を受けていただけます。スキルス胃がんなどのいわゆる進行胃がんには、審査腹腔鏡検査により腹膜転移の有無を観察後に治療を行いますので、過大な手術侵襲を避けることが可能になりました。最近は分子標的治療などの抗がん剤治療(化学療法)の進歩により、進行胃がんの予後は良くなってきています。また胃粘膜下腫瘍(GIST)と呼ばれる良性腫瘍(大きくなると悪性化することが知られています)に対しても腹腔鏡下手術で胃の部分切除を行っています。

 

 

■肝臓、胆のう・胆道系、膵臓手術の適応となる主な疾患

  • 肝疾患:肝細胞がん、転移性肝がん(おもに大腸癌)、肝内胆管がん、肝のう胞など
  • 胆道系疾患:胆のう結石症、胆のう炎、胆のう腺筋腫症、総胆管結石、胆のうがん、胆管がん、乳頭部がん、膵胆管合流異常症など
  • 膵疾患:膵がん、膵のう胞性疾患(IPMN、MCNなど)、慢性膵炎など

 

■肝臓疾患に対する外科治療

  • 肝臓の外科治療では、おもに肝細胞がん、転移性肝がんに対する手術を行っています。肝臓の手術は専門的な知識や経験、技術を要することが多く、経験を積んだ医師を中心として行っております。治療が特に困難ながんに対しては、奈良県立医科大学や奈良県総合医療センターと連携をとり、患者さんに適切な治療が提供できるようにしています。
  • また肝臓がんに対する治療は手術だけでなく、がんの状態(場所や進行度合い、個数、大きさ)あるいは肝機能の程度により、よりよい治療を選択する必要があります。当院では他の施設と同様に、肝癌診療ガイドラインに基づいて治療を行っております。当院は肝臓学会の専門施設に認定されており、消化器内科や放射線科の医師と協力して、ラジオ波焼灼(RFA)、肝動脈塞栓療法(TACE)、肝動注療法、抗癌剤治療など、様々な選択肢のなかからよりよい治療を選択しております。
  • 肝細胞がん(慢性肝炎、肝硬変から発生するがん)の治療は、肝切除、RFATACE、肝動注療法、抗がん剤(分子標的薬(ソラフェニブ、レンバチニブ、レゴラフェニブ)や免疫チェックポイント阻害薬(テセントリクとアバスチンの併用療法) )から選択します。

  肝細胞癌の患者さんの多くは、肝硬変となっておられるため肝機能が非常に低下していることがあります。よって治療によって得られる効果だけではなく、肝臓に対する負担がどの程度か、さらには将来再発した場合にはどんな治療が行えるかまでを見すえた上で、治療方針を判断しています。

  • 転移性肝がんの治療は、肝切除、抗がん剤(原発巣に対して効果の高いもの)を原則とします。特に大腸がんの肝転移は、切除することができれば根治の見込みもあり、切除しない場合に比べて良好な予後が期待できます。近年ではあらたな抗がん剤も数多く登場しており、診断の時点では切除不能と判断しても、抗がん剤の効果によっては切除が可能となることがあります(コンバージョンと言います)。

 

■腹腔鏡下肝切除

  • また最近では患者さんの負担や痛みをより少なくできるように、腹腔鏡での肝切除を行っています。2010年より腹腔鏡下肝切除が保険診療として認められており、現在では全国的に広まっております。当院でも腹腔鏡下手術を導入しており、2018年に腹腔鏡下肝切除のうち、部分切除、外側区域切除の施設認定を取得し、2020年には、亜区域切除、1区域、2区域及び3区域切除の施設認定を取得いたしました。
  • 手術で最も重要かつ優先すべきことは、その安全性です。腹腔鏡手術でもより安全に、合併症を増やすことなく手術が行えるように、3DナビゲーションシステムやICG蛍光法、術中の造影エコーなどを活用しております。当科における合併症発生率は、2016年以降で4.2%(処置を要するもの)と比較的低く抑えられていますが、さらに安全に手術が行えるように、これからも工夫や修練を重ねていきたいと思います。
  • 術後の入院期間は、腹腔鏡下手術を始めとした取り組み(クリニカルパスの活用、理学療法士を中心とした手術直後からの積極的なリハビリテーションなど)によって、短くなっています。2016年より前では入院期間は18日(中央値)でしたが、2016年以降は7とかなり短くなっています。中でも腹腔鏡手術では6となっており、より早く日常生活や社会生活へ復帰していただくことが可能となっています。

 

 

疾患別の治療2 -消化器の良性疾患-

■ 胆のう疾患

胆石、胆のうポリープ、胆のう炎などが治療対象となります。いずれの疾患におきましても、ほぼ全例に腹腔鏡手術を行っています。総胆管結石の場合には、まず消化器内科で内視鏡的に総胆管結石摘出後に、外科で腹腔鏡下胆のう摘出術を行いますが、外科・内科の連携により短期間での治療が可能です。胆のう炎症状が軽ければSILS(単孔式腹腔鏡手術)で手術を行いますが、術後3日目に退院が可能です。

 

 

■ そけいヘルニア

いわゆる脱腸と呼ばれ、加齢によりそけい部(股の付け根)の筋肉が弱ってくることにより膨れる、腹壁の疾患です。成人ではポリプロピレンという素材のメッシュを入れて腹壁を補強します。これまでは年間約100件の手術のうち、50%程度に腹腔鏡手術(TAPP)を行ってきました。令和元年5月からメッシュを体表から挿入するクーゲル法という手術を導入しました。この手術はすべてのヘルニアの出口を閉鎖できる優れた術式で、手術時間は短時間です(通常は腰椎麻酔)。当科ではTAPPもクーゲル法もどちらでも可能ですが、最近はクーゲル法を希望される方が次第に増えてきました。いずれも術後2~3日で退院が可能です。そけいヘルニアで脱出した腸が戻らなくなった状態を嵌頓(かんとん)と言いますが、嵌頓の場合には緊急手術が必要となりますので早めの受診が必要です。

 

 

■ 虫垂炎

炎症の程度が軽いものからカタル性、蜂窩織炎(ほうかしきえん)性、壊疽(えそ)性、穿孔(せんこう)性と分類されます。カタル性の場合には抗生剤による保存的治療が可能ですが、抗生剤の無効なカタル性や蜂窩織炎性虫垂炎にはSILS(単孔式腹腔鏡手術)での手術を行い、術後2~3日で退院が可能です。壊疽性や穿孔性の場合は重症であるため開腹手術が基本で、1~2週間程度の入院が必要ですが、腹膜炎症状が軽いと診断され腹腔鏡手術が可能な場合には比較的早期の退院も可能です。

 

 

■ 腸閉塞

手術後の癒着(ゆちゃく)や腸重積(じゅうせき)、内ヘルニア、そけいヘルニアの嵌頓(かんとん)のほかに、大腸がんや胃がん、膵臓がんなどの悪性腫瘍など、さまざまな原因により発症します。状態が安定している場合には、絶食、点滴などによる保存的治療を行いますが、生命の危険を伴う場合には緊急手術が必要です。まずは腹腔鏡により腸閉塞の原因を調べ、可能な場合には癒着の剥離(はくり)や腸切除などを腹腔鏡手術で行いますが、困難な場合には開腹手術に切り替えることも可能です。また大腸がんなどの悪性疾患が原因の腸閉塞では人工肛門が必要な場合がありますが、腹腔鏡手術では最小限の傷で行うことが可能です。

 

 

■ 大腸憩室症

憩室とは腸粘膜の一部が小さな袋状に突出したものです。大腸憩室の原因は、食物繊維が少ない食事によって大腸の運動が亢進して腸の内圧が高くなり、腸壁の弱い部分から腸粘膜が押し出されて生じると考えられています。複数個出来る場合が多いので、大腸憩室症といいます。大部分の大腸憩室症は無症状で検査によって偶然見つかります。憩室には腸の内容物が滞るので、細菌が増殖して憩室炎を起こしたり、血管が破れて憩室出血を起こすことがあります。憩室炎が起きると局所の腹痛や圧痛が生じ、さらに進行すれば発熱とともに白血球が増多し、ひびくような痛みが出現します。右側の大腸の場合は虫垂炎の症状と似ていますが、嘔吐嘔気を伴わないのが特徴です。安静と抗生剤の投与で治る場合が多いのですが、中には腹膜炎になり緊急手術を要することがあります。憩室炎が穿孔せずに長引く場合に膀胱と瘻孔(通路)をつくることがあり、この場合は尿路と腸管を分離するための手術が必要となります。憩室出血の多くはある程度出血し血圧が下がったら自然に止血します。安静と止血剤の点滴で収まることがほとんどです。出血が続く場合、診断と治療を兼ねて緊急大腸内視鏡検査で止血処置をしますが、血管造影で血管をつめる場合もあります。大腸憩室症の予防としては繊維分の多い食物を食べて、便通を正常に保つ事が第一です。大腸憩室症とわかっている方で強い腹痛や下血が起きた場合はすぐに医師の診察を受けるようにしてください。

 

 

■ 虚血性大腸炎

虚血性大腸炎とは、大腸を栄養している血液の流れが不足し、弱くなった大腸粘膜が炎症を起こす病気です。原因として動脈硬化、高血圧、 糖尿病などの基礎疾患のために血管が細くなっているところに、大腸の血管が一時的にれん縮したり、便秘、浣腸や大腸内視鏡検査などで 負担がかかることにより起こると考えられています。比較的高齢の女性に好発します。症状は突然の腹痛(とくに左下腹部痛)、下痢と淡いサラッとした血便が特徴的です。発症後の経過から3つの型に分類されます。 ほとんどが短期間で治癒する一過性型ですが、炎症が治った後に大腸が狭くなる狭窄型、腹膜炎で緊急手術が必要な壊死(細胞が死んでいる) 型も少数ながらあり、初期の診断が大切です。診断には好発部位が肛門から近い左側の大腸のため、大腸内視鏡検査が有用です。多くの場合 大腸粘膜が炎症を起こして出血しており、典型例では縦に長い(縦走) 潰瘍を認めます。炎症が強い場合は大腸がんと区別がつきにくいこともあります。治療は血便が止まるまでは腸管安静のため禁食とし、徐々に 食事を開始し、発症後約2週間で元の生活に戻れます。壊死型では手術のタイミングを逃さないことが大切です。予防と日常生活については、 基礎疾患があるのでしたらその治療をすること、お腹を冷やさないようにすること、そして便秘をしないことが大切です。 詳しくは NHKテキストきょうの健康2019年8月号 p116 なんでも 健康相談「虚血性大腸炎は再発しますか」 または http://seiwa-mc.jp/news/きょうの健康8月号に石川副院長が掲載されます をご覧ください。

 

 

■ 大腸クローン病

消化管全体に起こる原因不明の慢性の肉芽腫炎で、多くは高校生までに肛門周囲膿瘍、下血、腹痛や発熱で発症します。炎症が粘膜から筋層と深くなるにつれ、腸や皮膚と瘻孔を形成したり様々な合併症を起こします。腸管外の眼や皮膚に合併症を起こすことがあります。 難治性の痔瘻で発症するなど、肛門病変を半数に認めます。また、虫垂炎で発症することもしばしばあります。栄養状態の良い例は少なく、ほとんどは生来腸が弱いとされていた方です。病変のできる部位から小腸型、小腸大腸型と大腸型に分けられますが、小腸大腸型が大半を占めます。 治療の目標は、腸管の炎症を抑えて症状を鎮め寛解に導くこと(寛解導入)、そして炎症のない状態を維持すること(維持)になります。 治療は厚生労働省の治療指針に従って行います。まずは抗炎症薬、ステロイド、免疫調整薬や抗TNFα抗体製剤などの薬物療法や栄養療法(経腸栄養)の内科的治療が主体となります。これら内科的治療が有効でない場合や腸閉塞、穿孔などの合併症では外科治療が行われることもあります。厚生労働省の難病対策事業の対象疾患で、認定されれば公費負担されます。

 

 

■ 潰瘍性大腸炎

直腸からの連続的なびらん、潰瘍を主体とする原因不明の表層性大腸炎で、60%は30才までにくり返す下血で発症します。他の腸炎との鑑別が大切です。経過から全大腸炎型、左側結腸炎型、直腸炎型に分かれます。多くは再燃と緩解をくり返します。重症になると貧血になり、発熱し脈拍が増え、血液検査で白血球などの炎症反応が上昇します。治療は厚生労働省の治療指針に従って行います。まずは抗炎症薬、ステロイド、免疫調整薬、血球成分除去療法や抗TNFα抗体製剤などの内科的治療が主体となります。これら内科的治療が有効でない場合やステロイド等の副作用のため治療が継続できない場合、さらに穿孔、大出血、がん化などの合併症が起こると外科治療が行われることがあります。一般に発症5年以降は少し軽快する傾向があるのですが、10年を越すと今度は癌化のリスクが生じます。大腸全摘術は潰瘍性大腸炎の根治術となりますが、肛門機能に影響が残ります。術後はデスモイド腫瘍の発生に注意が必要です。厚生労働省の難病対策事業の対象疾患で、認定されれば公費負担されます。

 

 

■ 大腸と小腸の腸軸捻転症

腸軸捻転症は腸捻転症ともいい、腸管と腸管を栄養する腸間膜が捻れる病気で、腸に血流障害と腸閉塞が合わさった複雑な病態です。大腸の腸捻転は通常S状結腸が捻れることにより腹痛、腹部膨満や嘔吐が生じます。元々S状結腸が長く捻れやすい状態にあることが背景にあり、寝たきりの高齢者や精神疾患を有する方に多くみられます。腹部レントゲンとCTでのコーヒー豆様に基部がキュッとしぼんだ像で診断されます。大腸内視鏡を進めるとシャッター様に閉鎖された粘膜が螺旋状に開きだし、解除すると広い管腔がみえます。この捻転の整復後にくり返す場合は切除術が必要となります。重症では受診時に大腸が壊死し、腹膜炎になっていることもあります。小腸軸捻転症は腸間膜の主幹動脈の閉塞を伴うことが多く、より複雑で重篤な場合が多いです。その原因は、腸管回転異常や腸間膜固定不全などの先天異常,癒着,腫瘍,憩室などによる続発性,解剖学的異常や基礎疾患を有さない原発性、の3つに分類されます。原発性の発生原因は元々腸間膜が長く,腸間膜根部の幅が狭いことが指摘されており、地域性が報告されています(特にアラブ地域)。続発性の代表格は胃切除後で、切除したため腹腔内の空間が増え、加えて腸間膜に隙間が増えることとから小腸に軸捻転が生じやすくなっています。診断は造影CTで血管が渦巻き状に巻き込まれるホイールサイン(whirl sign)、腸管がくちばしのようにしぼまるビークサイン(Bird beak sign)が知られています。治療は手術が原則で、軸捻転の解除と血流の悪くなった腸を切除します。詳しくは NHKテキストきょうの健康2014年8月号 p128 なんでも健康相談「 大腸過長症といわれました 」 をご覧ください。

 

 

■ 肛門疾患(痔)

国民の約3人に1人が痔を持っているという報告があります。

その内訳では、内痔核(いぼ痔)が60%弱、裂肛(切れ痔)が約25%、残りが肛門周囲膿瘍及び痔瘻と血栓性外痔核になります。若い女性で多いのは裂肛です。これら4種類の痔は、臨床的に特徴がありますので、専門医なら問診だけで約90%が診断されます。

 

(内痔核)  

 現在、内痔核の成因は英国のトムソンが1975年に発表した支持組織減弱説(全体的に組織が弱り、肛門クッションが下降する)によると考えられています。この説では便秘と加齢が主な原因ですので、内痔核の治療としてまず生活療法として便秘の改善が大切です。

内痔核の程度は英国のゴリガーの分類によって判定されます。I度 : 出血のみ、II度 : 痔核が脱出するが、自然に肛門内に戻るもの、III度 : 痔核は脱出すると指で押し込まないと肛門内に戻らない、IV度 : 常時肛門から出ている状態、です。内痔核は肛門クッション(粘膜)そのものの脱出ですので、通常痛みはありません。

 

a. 痔核の薬物療法(座薬と軟膏)

I度とII度が良い適応です。同じ成分で座薬と軟膏がある場合、座薬は排便を促す力があるので、便秘の方は寝る前に入れると翌朝いい便が出ます。痛みが強い時は軟膏がオススメです(裂肛がいい例です)。ステロイドが入っている薬の長期連用には注意が必要です。

 

b. ゴム輪結紮術

II度とIII度が良い適応です。専用の医療器具を使って痔核の根元を小さなゴム輪で縛り、血流を止めることで徐々に痔核を壊死させる治療法です。痔核はゴムと一緒に1週間ほどで自然と脱落します。痛みが少ない治療法で、麻酔を使わず外来で治療を受けられます。ただし、抗凝固薬を服用している場合や、痔核をうまく掴めない場合などには行うことができません。

 

c. ジオン硬化療法(ALTA)

II度からIV度が良い適応です。ALTAとは漢方薬成分を日本で精製したものです。炎症を起こしてからそれを抑える効果により、 肛門管粘膜を損傷せずに動脈をほぼ閉塞させます。次第に痔核は萎縮・消失し、緩んだ肛門クッションは癒着・固定されます。修練を受けた専門医が1つの痔核に4段階に分けて注射します。腎機能障害では慎重に適応を決めます。

 

d. 手術療法 

19世紀半ばから外科手術が開始されました。当時は麻酔も清潔環境も抗生剤もない状態からのスタートでした。現在でも内痔核手術といえばミリガンモルガン法(1937年)がその代名詞です。痔核を肛門菅外へ引き出して血管を結紮し、 痔核を切除する方法です。支持組織減弱説が趨勢の現在では、肛門クッションを温存し、頭側に吊り上げる工夫が各施設で加えられています。

 

(裂肛)

裂肛は硬い便が通過する際に肛門の皮膚部分に傷ができたもので、血流の悪い背側と前方に好発します。皮膚ですので排便ごとに激しい痛みがあります。 急性裂肛と慢性裂肛の2つがあります。急性裂肛は浅い潰瘍ですので、下剤、軟膏と鎮痛剤で治癒します(誰しも一度は経験します)。慢性裂肛では便秘→硬便→切れるという悪循環になっている場合が多く、典型例では深い潰瘍に見張りいぼと肛門ポリープを伴い(3兆候)、 肛門狭窄になっています。内肛門括約筋にメスを入れたり、潰瘍部分を切除する治療を行います。

 

(肛門周囲膿瘍及び痔瘻)

肛門の皮膚と粘膜の移行部に炎症が起こり、膿がたまったものが肛門周囲膿瘍です。肛門周囲が腫れて激しい痛みが常時あり、 発熱します。痛くてとても椅子には座れません。外科で切開して膿を出すと、約半数は治癒します。残りは慢性化し、肛門括約筋を通って肛門の皮膚に瘻管(膿の通路)を作ります。これが痔瘻です。治療は手術しかありません。早く治すには瘻管を切開して開放するか、瘻管をくりぬく手術があります。ゆっくり治すには、瘻管に専用のゴムひもを通して縛り、ゴムが縮もうとする力を利用して、ゆっくり括約筋を切開します。時間をかけて少しずつ括約筋を切開していくため、切開されたところは治っていきます。これをシートン法といい、3ヶ月から半年必要です。

 

(血栓性外痔核)

アルコール多飲、スポーツ後等の翌朝に好発し、肛門に有痛性の腫瘤を触れます。 これは血管が破綻し血栓形成したものです。基本は保存的に治療しますが、極期で痛みが強い時は 局所麻酔下に血栓を摘出します。

まれですが、静脈瘤性の(大きな)外痔核もあります。

 

 

痔以外の肛門疾患については後述します。

内痔核治療の変還については成書をご参照下さい。

 

疾患別の治療3 -乳腺の疾患-

乳がん検診などで腫瘍(しこり)が疑われた場合はマンモグラフィーやエコー、CT検査などにより診断を行います。乳がんと診断され、手術やホルモン療法のみで可能な場合には当科で治療を行いますが、放射線療法や化学療法などの集学的治療が必要な場合には、他施設との連携により診断や治療をすすめています。

 

疾患別の治療4 -とくに大腸と肛門をくわしく-

■ 腹腔鏡手術について

 

>腹腔鏡手術

 

 

■ 再発・転移大腸がんに対する治療

手術は肉眼で行いますので、進行がんでは十分な距離をとって切っても、目に見えないがん細胞が残ることがあります。すべてがんが切除できたとしても、がんが治癒したと判断するには少なくとも術後5年の経過観察が必要です。進行大腸がんの術後再発を見つけるために、術後3年間は3ヶ月ごとにCEA とCA19-9 という腫瘍マーカー(がんが血液中に分泌する物質)を測定し、あわせて超音波とCTの画像診断を交互に行います。4年目以降は半年ごとに腫瘍マーカー測定とCTを行います。 再発診断時に腫瘍マーカーが上昇しているのは約60%で、残り40%では上昇を認めません。また血行性転移では腫瘍マーカーが上昇しやすく、局所再発では上昇しにくい傾向があります。こうした理由から定期的な腫瘍マーカー測定とCTは非常に重要です。これらをまとめた奈良県共通の、病院と診療所(医院)との地域連携で用いられる「私のカルテ」も当センターにも用意してあります。  

 大腸がんは局所(リンパ節)、肝臓、肺、腹膜などに再発することが多いのですが、これらの再発・転移においても、「限局している病変は切除する」原則はあてはまります。たとえ肺や肝臓の遠隔臓器に転移をしていても、切除できれば長期生存が期待できるため、転移した病巣への治療が重要となります。そのままでは切除できない場合でも、最近の抗がん剤の進歩により手術のチャンスが生まれる場合があります。ただがんは一般に再発すると限局性が失われていることが多く、その治療には高度の専門的知識が要求されます。当科ではPET-CT検査を行って病巣が限局しているかを判断し、限局性がありそうなら積極的に手術を行います。

とりわけ肝臓への転移は、肝切除によって完治が望める場合がありますので、繰り返しあきらめない治療が必要です。腹膜播種は開腹してわかることも多いのですが、根気よく切除すると長期生存がえられる場合があるため、可及的に切除する方針です。肺転移では手術できる回数が限られているため、手術のタイミングの判断が肝要です。直腸がんの骨盤内再発(局所再発)に対する手術は技術的に大変困難で、放射線療法、化学療法に手術を組み合わせた集学的治療となります。しばしば膀胱や骨盤壁の一部を合併切除する大手術となるため、高度な技術と専門知識が要求され、手術することのできる病院は限られてきています。当院では、麻酔科を含む外科系諸科との密な連携により、骨盤内再発に対する切除手術を行います。うまく切除できた場合には長期生存や根治が期待できます 。

 

 

■ 痔以外の肛門疾患

(肛門管がん)

肛門を締める部分にできる肛門管がんは、しばしばいぼ痔として治療されます。稀なことと、いぼ痔は出血するため生検がためらわれることがその理由です。よく診察すると通常のいぼ痔より“硬い”のが特徴です。治療方針は、粘膜からのがん(腺がん)か、皮膚からがん(扁平上皮がん)かにより決まります。腺がんなら切除が原則ですが、扁平上皮がんなら放射線と抗がん剤がよく効く場合があります。

 

(直腸脱)

肛門から直腸の粘膜と直腸壁全層が脱出する病気で、高齢の女性に多く、時に子宮や膀胱の脱出が併発していることもあります。原因は、骨盤底部の筋肉の緩みおよび直腸の仙骨への固定不良で、便秘、排便時のいきみが誘因になって起こります。治療は手術となりますが、高齢者にはおしりからの手術(ガント三輪ティールシュ法)を行っています。この方法は、まず腰椎麻下に最深部を引き出し、糸で絞りを繰り返します(ガント三輪法)。ついで伸縮するテフロンテープを肛門括約筋の周囲に巻きつけ、締り具合を調整します(ティールシュ法)。若い方には腹腔鏡手術で脱出する直腸を吊り上げて固定します(肛門の緩みはそのまま)。

 

(直腸静脈瘤)

内痔核は肛門クッションの脱出による局所の病変ですが、直腸静脈瘤は門脈圧亢進症(肝硬変など)の約10%に合併する、全身疾患の直腸肛門病変です。内視鏡検査では、直腸から肛門まで累々と怒張した静脈瘤を認めます。直腸静脈瘤を内痔核と誤って診断して手術した場合、コントロールのつかない大量出血をきたし、しばしば止血に難渋します。また初回の大量出血で死亡することもあります。しかしながら直腸静脈瘤の予防的治療はコンセンサスを得られておらず、一度出血した後か出血時の治療となります。治療手技として直接縫合(静脈瘤を連続的に縫い縮める)、ゴム輪での結紮、最近では血管造影をして止血する報告が増えていますが、標準的な治療方法は確立していません。肝機能障害、特に肝硬変末期の肛門出血の原因には、内痔核からと直腸静脈瘤からの2種類があることを念頭におき、それぞれの病態に応じた治療法を適切に選択する必要があります。

 

(尖型コンジローマ、せんけいこんじろーま)

パピローマウイルスによってできる病気です。汗もの様な小さいものから、放置するとすぐに増えてカリフラワーの様な大きなコブになってしまうので、なるべく早めに、切除や焼灼(しょうしゃく)し取り去ることが必要です。最近では軟膏による治療が可能となリました。

 

(悪性黒色腫)

黒子(ホクロ)のがんが肛門皮膚にできることがあります。完全に黒くない場合もあります。すぐに転移するので予後が悪いのですが、可能なら切除が第一選択です。

 

(肛門皮垂、スキンタグ)

肛門周囲の皮膚がたるんで少し飛び出ている状態です。多くはいぼ痔や切れ痔の元々腫れていた部分がしぼんだことによります。女性では肛門の違和感や不快感の原因となり、受診されることがあります。まず他の病気がないかを調べます。肛門皮垂が原因で下着が汚染されるようになれば、切除を検討します。

 

(肛門掻痒症)

症状は肛門がかゆくなることです。原因は大きく分けて、真菌(カビ)によるものか、刺激によるもの(便、石鹸、外用薬等)かのいずれかです。真菌の場合は抗真菌薬(水虫の薬)を、刺激の場合は炎症を抑える薬を塗ります。衣類はゆったりと風通しの良いものが良く、排便後はお湯で洗い、石鹸およびウェットティッシュは避けることです。

 

(温水洗浄便座症候群)

温水洗浄便座の過度の使用が肛門のかゆみなどを引き起こすことがあります。症状は先の肛門掻痒症と基本的に同じです。 温水洗浄便座を使う際は、できるだけ弱い勢いで、20-30秒にとどめるようにしてください。

 

皆様の大腸と肛門の健康にお役に立ちたく思います。

お困りの事がありましたら、石川までお気軽にお尋ねください。

 

 

食道の疾患

食道がん

 

食道癌診断・治療ガイドラインに準じて治療を行なっています。治療方法には、1)手術治療、2)内視鏡治療、3)化学療法(抗がん剤治療)、4)放射線治療などがあります。がんの進行度や患者さんの状態に応じて、治療法を決定します。当院では、奈良県立医科大学や奈良県総合医療センターと連携をとり、患者さんに適切な治療を提供できるようにしています。

 

食道がんの
進行度
N0
リンパ節
転移がない
N1
第1群への
リンパ節転移
N2
第2群への
リンパ節転移
N3
第3群への
リンパ節転移
N4
第4群への
リンパ節転移
M1
遠隔臓器への
転移
T0, T1a
粘膜にとどまる
0 Ⅳa Ⅳb
T1b
粘膜下層にとどまる
Ⅳa Ⅳb
T2
固有筋層にとどまる
Ⅳa Ⅳb
T3
外膜までひろがる
Ⅳa Ⅳb
T4a
食道周囲組織にひろがるが切除できる
Ⅳa Ⅳb
T4b
食道周囲組織にひろがり切除できない
Ⅳa Ⅳa Ⅳa Ⅳa Ⅳa Ⅳb

 

1)手術治療:進行度0〜III期の患者さんが対象となります。病変(がん)部を含めた食道を切除するのと同時にリンパ節郭清(周囲のリンパ節を切除すること)を行います。切除すべき食道の範囲やリンパ節郭清の範囲は、がんの部位や進行度によって決定されます。胸部食道がんの場合には、比較的早期の段階でも広範囲にリンパ節転移を起こす可能性があるため、食道亜全摘術(胸部・腹部の食道全てと頸部の食道の一部を切除します)が行われることが多いです。よって、食道がんの手術では、胸、腹、首の操作が必要になります。
胸部食道がんの手術では、食道を切除するためには開胸(胸を開ける操作)が必要になります。食道は心臓、気管、気管支、肺などに囲まれ、骨の前にあり、通常は右の肋骨の間を分けて食道まで到達します(右開胸)。

 

 

従来、食道がんの治療では開胸手術、開腹手術が一般的でありました。最近では、胸腔鏡腹腔鏡での手術を行なっています。術後の痛みの軽減、回復促進、肺炎発生の減少などの利点があります。高度の技術を要しますが、経験を積んだスタッフが行うことで安全に治療を受けていただけます。
食道がんの手術治療は非常に大きな手術であります。当院では、他診療科医師や看護師、理学療法士、言語聴覚士、薬剤師、栄養士など様々な職種のスタッフが密に連携することで安全な治療を提供できるよう心がけています。

2)内視鏡的治療:リンパ節転移のない早期のがん(0期)の患者さんが対象になります。内視鏡(胃カメラ)を用いてがんを切除します(内視鏡的粘膜下層剥離術ESDなど)。切除後の組織検査の結果によっては、追加での治療が必要になる場合があります。

3)化学療法(抗がん剤治療):肝臓や肺などの臓器に転移(遠隔転移)がある患者さんが対象となります。また、手術治療の効果を高めるために手術の前や後に行うことがあります(補助化学療法)。放射線治療と同時に行うこともあります。数種類の薬剤を組み合わせた治療が行われることが多いです。

4)放射線治療:他の臓器にがんが浸潤していたり、持病のために手術治療が困難な患者さんが対象となります。化学療法を同時に行うこともあります。

 

 

食道裂孔ヘルニア

食道は、横隔膜の筋肉でできた食道裂孔とうい隙間を通って腹部に入ってきます。食道裂孔ヘルニアとはこの筋肉が脆弱になって、食道裂孔がひろくなり生じる病気です。胸のなかに胃や大腸などが脱出し、胸焼けや咳、のどの違和感、食欲低下、痛みなど様々な症状を引き起こします。薬物治療が主体になりますが、薬物治療に効果がない場合や胃が大きく脱出した場合、大腸が脱出した場合などには手術治療が必要となります。  手術治療では、ひろくなった食道裂孔を縫い合わせることと(縫縮術)、胃酸や胃の内容物が逆流することを防止するために噴門形成術を行うことが一般的です。当院では、食道裂孔ヘルニアの手術においても腹腔鏡手術を導入しています。

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