主な疾患と治療について
■小児循環器(担当 吉澤)
小児循環器は先天性心疾患、不整脈、川崎病、心筋症などを扱う分野です。検査は主に心臓超音波検査、心電図を行います。乳幼児・学校検診による心電図異常の指摘、心雑音、胸痛、体重増加不良などで紹介受診されることが多いです。小児循環器外来(火曜日午後)に受診していただければ、その日に心臓超音波検査をさせていただきます。
担当の吉澤は奈良医大で12年間、小児循環器の診療をおこない、2021年4月から当院に赴任しました。先天性心疾患は心臓超音波検査で診断し、手術が必要な症例は、その適切な時期を判断します。先天性心疾患は全ての症例で手術が必要であるわけではなく、成長とともに軽快する場合があります。手術が必要な場合は、小児心臓外科医がおられる医大等に紹介させていただきます。また、難治例の川崎病治療の診療も多く担当していましたので、川崎病の症例でお困りの際はご相談いただければと存じます。不整脈の精査はホルター心電図(24時間記録する心電図)・トレッドミル検査(心電図をとりながら運動する検査)などを行っております。不整脈の治療は抗不整脈薬の内服かアブレーションです。治療について説明し、アブレーションを希望されれば、小児の不整脈専門病院に紹介させていただきます。
失神・起立性不耐症について
当院は小児の循環器と心身症の専門医がいることが特色で、その双方向の領域で診療したほうがよい代表的疾患は「失神」です。失神の原因には心臓疾患、自律神経障害による起立不耐症などがあり、さらに失神と似た病気に、てんかん、心因性偽失神(ヒステリー)があります。
起立不耐症は起立性調節障害・自律神経失調症といわれることもあり、症状として「朝おきられない・立ちくらみ・しんどい」があり、夕方には症状がなくなることがあり、怠けているのではないかと誤解されることがあります。起立不耐症は自律神経の調整不良による身体疾患です。さらに心身症を合併することがあり、循環器・心身症の双方向の領域での診療が必要になってくることが多いです。当院では詳細な検査としてヘッドアップチルト試験を行い、起立不耐症をタイプ別に診断し、治療を行っています。
起立不耐症(起立性低血圧・体位性頻脈症候群)について(PDF)
■小児アレルギー(担当 西山 池田)
現在、日本におけるアレルギー疾患は増加傾向にありますが、正確な診断を行うことが最も大切です。
アレルギーがあると生活がの中で制限されるがあることがもありますが、正確な診断に基づいた適切な治療と適切な管理を行うことにより、不必要な制限を防げます。
当院ではアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などが主に扱うアレルギー疾患で、地域の医療機関とも連携し、アレルギー専門医により、エビデンスのある診療を心がけています。
アレルギー疾患の多くはアレルギー素因という体質と環境要因が複雑にからみあい、発症していくと考えられています。
アレルギー疾患には、それぞれ発症しやすい時期や順番があり、乳幼児期にアトピー性皮膚炎になると、続いて食物アレルギーや気管支喘息、さらにアレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎になる傾向があります。
必ずしも全員が同じようになるわけではありませんが、次々と発症していく様子をマーチ(行進曲)に例えてアレルギーマーチと呼ばれています。
アレルギーマーチの発症・進展を予防するために早くに気づき、症状をコントロールすることは非常に大事です。
入院での食物経口負荷試験やアトピー性皮膚炎治療、外来では食物アレルギーの経口免疫療法、アトピー性皮膚炎や気管支喘息の長期管理、アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法、栄養管理部と連携した食事指導などを行っています。
アレルギー疾患の発症に「できるだけ早く気づくこと」・「適切な治療と管理により症状をコントロールしていくこと」を目指して治療を行います。
〇アトピー性皮膚炎
小児のアトピー性皮膚炎の治療の基本は、薬物治療・スキンケア・環境因子の対策です。薬物治療は主にステロイドの外用であり、適切な外用方法の指導を行います。また近年、炎症が再燃せず、寛解した状態を長時間維持できるようにプロアクティブ療法が推奨されています。外用薬のみならず、バリア機能を補正するためのスキンケア、悪化因子を取り除く環境因子対策を行い、良好なコントロールを目指します。
〇食物アレルギー
食物アレルギーは年齢により原因となりやすいアレルゲンは異なり、乳幼児は鶏卵・牛乳・小麦、学童期以降は甲殻類・果物・ソバ・ピーナッツが代表的ですが、近年は幼児期の木の実類によるアレルギーが増加し、アナフィラキシーショックの割合も増加しています。問診と血液検査で原因物質を特定し、食物経口負荷試験にて安全に食べられる範囲を見極め、楽しく安全な食事を目指します。
〇気管支喘息
気管支喘息はアレルゲンや感染などの環境因子を契機とした気道炎症により、発作性に気道狭窄が起こり、呼吸困難をきたす疾患です。気道炎症が持続すると、リモデリング(気道の壁が肥厚、構造変化すること)が起こり、重症化します。重症度を評価し、呼吸機能検査・呼気NO検査などを行い、症状がない状態で日常生活を送ることを目標に、適切な薬物治療を行います。喘息症状に慣れると、症状を過少評価し、怠薬となりがちです。不十分な治療では重症化しやすくなるため、家族と患児には喘息治療の必要性を詳細に説明し、サポートしていきます。
〇アレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎には、通年性(1年中症状がある)と季節性(特定の季節に症状がある)があります。風邪症状と区別するのは難しい場合もありますが、近年ではアレルギー性鼻炎を発症するお子さんが増加しており、発症時期が低年齢化してきていると言われています。鼻炎症状が強く口呼吸になると乾燥した空気がそのまま体内に入り感染症などのリスクが高まり、コントロールは重要です。
アレルゲンとして頻度の多い、ダニとスギに関しては根本的な体質改善を目指す舌下免疫療法も行っています。
■ 小児心身症・発達(担当 田口)
心身症とは、『気持ちの問題が大きく影響している体の症状』のことを指します。『登校しようとすると腹痛が生じ、なかなかトイレから出られない』、『発表が近づくと頭痛が強くなり、日常生活に支障をきたす』などが代表的な症状です。一般的な体の治療(痛み止めや整腸剤など)を行うだけでは改善しない場合があります。その一方で、体の症状の評価も必要であり、心身両面から治療を行っていきます。
また、体の症状は目立たなくとも、不登校・行き渋りや睡眠の問題、ネット・ゲームへの依存など様々な形で気持ちの問題は出現します。このような問題が疑われる際は、当科まで、お問い合わせ下さい。なお、症状から精神科による治療が必要と判断した場合は、県内の児童精神科施設に紹介させていただきます。
神経発達症(発達障害)には自閉スペクトラム症(ASD:社会性が乏しい、コミュニケーションが苦手、こだわりが強い)や注意欠如多動症(ADHD:落ち着きがない、衝動性が強い)、限局性学習症(LD:読み、書きや算数といった特定の分野で学習が困難)などが含まれます。診断や支援の導入が遅れると、成功体験の少なさや叱られる経験の多さにより自尊心の低下につながるため、早期の介入が必要です。
子供の特性(得意・不得意や物事の捉え方のくせ)を把握した上で、どのような環境が望ましいのか、どのような保護者の声のかけ方が望ましいのかといったことを一緒に考えていきます。また、臨床心理士・公認心理師の資格を持つスタッフが心理・発達検査を実施しています。適切なタイミングで検査を行い、子供の内面をより理解していくことに努めています。さらに、必要に応じて学校や幼稚園・保育園と連携することで、よりよい環境を整えていきます。神経発達症が疑われる際は、当科まで、お問い合わせください。なお、初診の受付は中学生までとさせていただいています。
■ 小児内分泌(担当 吉澤)
小児内分泌疾患とは、体全体の健康維持を調節する物質(ホルモン)の分泌が過剰・欠乏となり、調節機能障害となる病気です。成長ホルモン分泌不全性低身長、思春期早発症、甲状腺機能異常、糖尿病、肥満が小児内分泌で扱う代表的疾患です。これらの内分泌疾患の症状は低身長、高身長、思春期が早い(乳房腫大、初経が早いなど)・思春期が遅い、首が腫れている(甲状腺肥大)、体重が増えない、肥満、多飲・多尿などがあります。血液・尿検査、画像検査(レントゲン、超音波検査、MRI検査)など必要に応じて精査し、さらに負荷検査を行うことがあります。負荷検査とは特定のホルモン分泌を促す薬剤を投与することで、分泌障害の原因検索のために行います。
ご紹介の多い「低身長」の原因は様々あります。成長ホルモン分泌性不全低身長が原因の場合、成長ホルモン治療を行うことができます。治療を行うには、低身長の基準を満たし、成長ホルモンがでていないことを確認するために成長ホルモン分泌負荷検査を行う必要があります。成長ホルモン分泌不全以外の低身長の原因は様々あり、特発性(家族性)、甲状腺機能低下など他のホルモン分泌不全、SGA低身長(身長・体重が小さく生まれたこども)、栄養障害、骨疾患、心臓・腎臓などの臓器障害があり、問診、検査で精査していきます。
成長ホルモン分泌性不全低身長の治療は週6-7回の皮下注射です。治療効果の判定・副作用がないか定期チェックしていきます。成長ホルモン皮下注射の行為は慣れるまでは家族・こども達は不安であり、安心して治療ができるよう、医師・看護師が指導・サポートをしていきます。
低身長の精査目的で受診の際、身長の経過が重要になってきますので、母子手帳、幼稚園・保育園・学校での成長記録を持参してください。下記の低身長の問診をダウンロードして、自宅で記入・持参お願いします。
■ 頭のかたち外来(担当 吉澤)
2023年7月より当院小児科で「頭のかたち外来」を開設しました。赤ちゃんの頭はやわらかく、頭が絶壁(短頭)、斜め(斜頭)の形にゆがむことがあります。頭の変形の原因のほとんどは向き癖などによる位置的頭蓋変形です。頭の変形は体位変換(体の向きを定期的に変える)や、お座りできるようになれば、改善してくることがほとんどです。変形が重度の場合、改善の程度が弱いことがあります。その改善策の一つにヘルメットによる頭蓋矯正治療が最近できるようになりました。ヘルメット治療が行える施設は最近増えてきてはいますが、限定的であります。赤ちゃんの頭のかたちが気になれば、受診し、ご相談していただければと存じます。詳細は下記のPDFを参照してください
診察日 金曜日午後(13-15時)吉澤
■小児神経 (担当 田口,竹田,榊原)
小児神経は、けいれんや意図しない動きを繰り返すてんかんを中心に、手足の運動や感覚に異常がある、見え方や聞こえ方がおかしい、歩行時にふらつきがある、頭痛が続くなどの問題に対して治療を行う分野です。詳細な問診および身体診察を行い、血液検査の他にCT、MRI、脳波などを用いて診察を進めていきます。
てんかん発作では脳に意図しない信号が生じることで、けいれんを始めとして様々な症状をきたします。てんかんには多くの種類があり、それぞれ症状や経過、適切な治療法は異なります。当科では、てんかんの診断・治療を行うことはもちろん、より安全に、より充実した生活を送ることができるよう、治療方針や生活上の注意点など対話を重ねながら診察していきます。また、当科は奈良県では数少ない小児の長時間ビデオモニタリング脳波検査を行うことができる施設です。病棟で生活を送りながら脳波を記録することで詳細に発作の形や頻度を確認することができ、より適切な治療法を選択することができます。
当科では、奈良県立医科大学の小児神経専門医である榊原先生と症例カンファレンスを定期的に行っており、スタッフ一同、診断、治療の技術の向上に努めています。また、令和4年4月から小児神経外来を設け、奈良県立医科大学の竹田先生が週一回、非常勤で診察しています。これからも当科で長年培われてきた小児神経分野の知見を、さらに拡充していきます。
■予防接種 (担当 西山、吉澤)
定期接種とシナジス(注1)の予防接種を行っています。当院は予防接種2次医療機関で、1次接種は行っておりません。2次医療機関とは1次医療で予防接種を受けることが難しい基礎疾患や、予防接種によるアレルギーの既往がある患者さんを中心に予防接種を行っております。基礎疾患とは心臓の病気・早産児・神経疾患などの持病があることをいいます。定期予防接種は市町村単位での行政で管理のため、患者さんのご家族には各役場での手続きが必要です。当院で予防接種を行うにあたり必要な詳細は下記の予防接種の案内をご参照してください。
予防接種外来は木曜日 14-16時です。また、シナジス接種が対象となる患者さんは、希望があれば、定期予防接種をシナジスと一緒に接種させていただいております。
(注1)シナジス
RSウイルス感染症にかかった時に重症化するのを予防する注射です。RSウイルスとは2歳までにほとんどのこどもが感染するといわれ、乳児が感染すると細気管支炎という呼吸障害が重篤になる場合があります。
シナジスは通常の予防接種で行うワクチンではなく、RS ウイルスに効果がある抗体成分を精製したもので効果は約1か月です。RS感染症が流行する秋から春にかけて、毎月投与する必要があります。通常の予防接種のような公費で行われず、保険診療で行われるお薬です。そのため、シナジス接種が保険適応となる対象疾患があり、RSウイルスに感染したときに重症化しやすい「早産児・先天性心疾患・免疫不全・ダウン症候群」の方です。