乳がんの診断
乳房のしこりなどの症状がある方,検診で精密検査を指示された方についてはマンモグラフィーや超音波検査を行い,疑わしい所見があれば超音波を見ながら局所麻酔下に針を刺して組織を少量採取し,顕微鏡の検査でがんがあるかどうかを診断します.
がんと診断された場合にはCTや骨シンチグラフィーでリンパ節や他の臓器に転移していないかをみて,がんの病期(ステージ)を決めると同時に針で採取した組織を用いて免疫組織染色法でそのがんの性質を確認します.このステージとがんの性質から治療方針を決定します.採取した組織にがんが発見されなかった場合には,経過観察を行います.
乳がんの治療方針
ホルモン陽性
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ホルモン陽性 ハーツー陰性 高悪性度 |
ハーツー陽性 |
ホルモン陰性 ハーツー陰性 |
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非浸潤がん | 原則として手術のみ(状況によりホルモン治療を行う場合があります) | |||
ステージ1〜2 |
手術 術後ホルモン療法 |
手術 術後化学療法+ ホルモン療法 |
術前化学療法 手術 術後抗ハーツー療法 |
術前化学療法 手術 術後化学療法 |
ステージ3 |
(術前薬物療法) 手術 術後ホルモン療法 |
術前薬物療法 手術 術後ホルモン療法 |
術前化学療法 手術 術後抗ハーツー療法 |
術前化学療法 手術 術後化学療法 |
ステージ4 | ホルモン療法 |
ホルモン療法 場合により化学療法 |
化学療法+ 抗ハーツー療法 |
化学療法 |
原則としてこのような治療を行いますが,年齢や持病などの個人背景を考慮してその方にとって最も適していると思われる治療方針を考えていきます.
乳がんの手術
乳がんの手術は乳房の手術と腋窩リンパ節の手術から構成されます.
乳房の手術に関しては,がんの広がりが大きい場合には乳房を全て切り取る手術が必要になりますが,がんの部分のみを切除して変形があまりない乳房を残せそうな場合は温存手術を行います.この場合は手術の傷が目立たないように乳輪の色の変わり目や腋の部分を切開して手術を行います.
腋窩リンパ節の手術は,手術前の診断で腋窩リンパ節にがんが転移していなさそう場合にはセンチネルリンパ節生検という方法をとります.腋のリンパを全て切除するのではなく,手術中に色素を使用して,がん細胞が最初に流れ着くリンパ節を見つけてその付近のリンパ節のみを採取し,本当にリンパ節にがんが転移していないかを調べます.この方法によって手術後の腕のむくみ,挙上困難,知覚異常などを避けることが可能です.手術前の診断で腋窩リンパ節に転移がありそうな場合にはこの方法はとれないので,腋窩リンパ節を全て切除することになります.
乳がんの薬物療法
手術前後に行う場合と,進行したがんや手術後に再発したがんに対して行う場合があります.原則として外来通院で行いますが,抗ハーツー療法のハーセプチンという薬剤は初回の点滴のみ入院で行います.薬の種類によって通院の間隔が変わります.副作用や日常生活の問題に対しては医師だけではなく薬剤師や看護師をはじめ専門の医療スタッフも関わりながら安全,安楽に治療が受けられるように支援します.
乳腺良性疾患
乳腺の良性疾患については,がんとの鑑別が最も重要ですので超音波検査や場合により針生検や細胞診を組み合わせて診断を行います.葉状腫瘍,乳管内乳頭腫,大きくなっていく線維腺腫などは手術の対象になることがあります.手術の対象にならない良性の腫瘍や比較的強い乳腺症に関しては6ヵ月から1年程度の間隔で経過を観察していきます.
乳がんは日本人女性で最も多いがんですが,奈良県は乳腺専門医が少なく専門診療へのアクセスが良好とはいえませんでした.今後この地域で乳腺疾患の診療が受けやすくできるように,また科学的根拠に基づいた世界標準の乳腺疾患診療を提供できるよう努力してまいります.