腎盂尿管癌
腎盂と尿管は上部尿路と呼ばれ、腎臓でつくられた尿を膀胱まで運ぶ役割を担っています。ここにできるがんは「腎盂・尿管癌」という1つのグループとして扱われます。治療法にもあまり差がないために、両方をまとめて考えることが一般的です。腎盂から尿管、膀胱、尿道の一部へとつながる尿路の内側は尿路上皮(移行上皮)と呼ばれる組織でできています。この組織から発生するがんを尿路上皮癌といい、腎盂・尿管癌のほとんどを占めます。腎盂は腎臓の一部ですが、「腎細胞がん」は腎実質(腎臓の外側)から発生する癌であり、腎盂・尿管癌とは性質が違うため、別の疾患として扱われます。
症状
腎盂・尿管癌で最も多い症状は、肉眼的血尿です。尿管が血液でつまった場合や、がんが周囲に広がった場合などには、腰や背中、わき腹の痛みが起こることもあります。これらの痛みは尿路結石(腎盂や尿管に石がある状態)と似ており、強い痛みが起こったり消えたりします。
癌で尿管がふさがると、腎盂がはれた状態(水腎症)になります。これが長く続くと、腎臓が機能しなくなってしまうことがあります(無機能腎)。片方の腎臓が機能しなくなっても、もう一方の腎臓が機能を補いますので、腎不全のような、尿の出が少なくなったり、体がむくんだりなどの症状はそれほど多くは起こりません。
最近は検診などで超音波(エコー)検査が広く行われるようになったため、特別な症状がないうちに発見される腎盂・尿管癌が増えています。また、水腎症があって精密検査をした結果、腎盂・尿管癌が発見されることもあります。
治療
転移のない腎盂・尿管癌に対する治療方針は、手術療法が主体です。術前の画像診断などにより浸潤癌であることが疑われた場合は、抗がん剤による化学療法を施行した後、手術を行うこともあります。手術は、患側の腎臓、尿管、さらには膀胱壁の一部も含めた腎尿管全摘除、膀胱部分切除を施行するのが一般的です。早期の尿管癌の場合には、腎臓を摘出せず、尿管の部分切除が行われることもあります。
腎盂尿管と膀胱は連続しているため術後、膀胱内に再発しやすいという特徴があります。予後は膀胱癌より不良であることが多く、これは、尿管壁が非常に薄いため、浸潤性の尿管癌の場合は容易に壁外に進展するからです。また、浸潤性の腎盂癌では、血管やリンパ管が豊富な腎実質内へ進展し、転移することが多いからでもあります。このため、手術の結果、浸潤性の癌であると判明した場合は抗がん剤の治療を行い、再発を少しでも少なくするような治療を行う必要があります。
すでにリンパ節やほかの臓器に転移している場合、手術療法の適応にはなりません。この場合は、シスプラチンと呼ばれる抗がん剤を中心とした数種類の抗がん剤を用いた化学療法(多剤併用化学療法)を行います。前述した、浸潤癌が疑われる場合の術前化学療法も、同様の化学療法を行います。また、放射線療法については尿路上皮癌に対する効果が十分ではないため、すでに転移があり根治術が望めない場合などに行っています。
1. 手術(外科療法)
1)腎尿管全摘除術および膀胱部分切除術
従来は開腹手術が一般的でしたが近年では腹腔鏡を用いた低侵襲手術が主流となっています。当院では手術支援ロボットを用いた腹腔鏡手術も行っています。
2)尿管部分切除術
早期の尿管癌や腎臓が1つしかない場合などには、腎臓を摘出せず、尿管の部分切除を行うこともあります。しかし、残った部分に再発する可能性がありますので、治療選択は慎重に行う必要があります。
3)内視鏡的切除術
内視鏡を用いて主に医療用レーザーで癌を切除する方法です。一般に、単発で悪性度の低い小さな癌に行う場合がありますが保険適応外であるため大学病院など一部の施設でのみ行われています。
2. 化学療法(抗がん剤治療)
シスプラチンという薬物を中心に数種類の抗がん剤を組み合わせて使う多剤併用化学療法が行われます。最近では抗がん剤の効果が得られない場合には免疫チェックポイント阻害薬という薬も保険適応となっています。
3. 放射線療法
腎盂・尿管癌などの尿路上皮癌にはあまり高い効果は期待できません。転移があって根治が望めない場合や年齢、合併症などにより手術が難しい場合、痛みなどの症状を緩和するために選択されることがあります。
4. 腔内注入療法
腎臓を温存するためや年齢・合併症などにより手術治療を行えない場合などに、結核に対するワクチンとして使われるBCGを、カテーテルで腎盂・尿管に注入する方法が選択されることがあります効果は限定的とされています。