胆のう疾患
胆石、胆のうポリープ、胆のう炎などが治療対象となります。いずれの疾患におきましても、ほぼ全例に腹腔鏡手術を行っています。総胆管結石の場合には、まず消化器内科で内視鏡的に総胆管結石摘出後に、外科で腹腔鏡下胆のう摘出術を行いますが、外科・内科の連携により短期間での治療が可能です。胆のう炎症状が軽ければSILS(単孔式腹腔鏡手術)で手術を行いますが、術後3日目に退院が可能です。
そけいヘルニア
いわゆる脱腸と呼ばれ、加齢によりそけい部(股の付け根)の筋肉が弱ってくることにより膨れる、腹壁の疾患です。成人ではポリプロピレンという素材のメッシュを入れて腹壁を補強します。これまでは年間約100件の手術のうち、50%程度に腹腔鏡手術(TAPP)を行ってきました。令和元年5月からメッシュを体表から挿入するクーゲル法という手術を導入しました。この手術はすべてのヘルニアの出口を閉鎖できる優れた術式で、手術時間は短時間です(通常は腰椎麻酔)。当科ではTAPPもクーゲル法もどちらでも可能ですが、最近はクーゲル法を希望される方が次第に増えてきました。いずれも術後2~3日で退院が可能です。そけいヘルニアで脱出した腸が戻らなくなった状態を嵌頓(かんとん)と言いますが、嵌頓の場合には緊急手術が必要となりますので早めの受診が必要です。
虫垂炎
炎症の程度が軽いものからカタル性、蜂窩織炎(ほうかしきえん)性、壊疽(えそ)性、穿孔(せんこう)性と分類されます。カタル性の場合には抗生剤による保存的治療が可能ですが、抗生剤の無効なカタル性や蜂窩織炎性虫垂炎にはSILS(単孔式腹腔鏡手術)での手術を行い、術後2~3日で退院が可能です。壊疽性や穿孔性の場合は重症であるため開腹手術が基本で、1~2週間程度の入院が必要ですが、腹膜炎症状が軽いと診断され腹腔鏡手術が可能な場合には比較的早期の退院も可能です。
腸閉塞
手術後の癒着(ゆちゃく)や腸重積(じゅうせき)、内ヘルニア、そけいヘルニアの嵌頓(かんとん)のほかに、大腸がんや胃がん、膵臓がんなどの悪性腫瘍など、さまざまな原因により発症します。状態が安定している場合には、絶食、点滴などによる保存的治療を行いますが、生命の危険を伴う場合には緊急手術が必要です。まずは腹腔鏡により腸閉塞の原因を調べ、可能な場合には癒着の剥離(はくり)や腸切除などを腹腔鏡手術で行いますが、困難な場合には開腹手術に切り替えることも可能です。また大腸がんなどの悪性疾患が原因の腸閉塞では人工肛門が必要な場合がありますが、腹腔鏡手術では最小限の傷で行うことが可能です。
大腸憩室症
憩室とは腸粘膜の一部が小さな袋状に突出したものです。大腸憩室の原因は、食物繊維が少ない食事によって大腸の運動が亢進して腸の内圧が高くなり、腸壁の弱い部分から腸粘膜が押し出されて生じると考えられています。複数個出来る場合が多いので、大腸憩室症といいます。大部分の大腸憩室症は無症状で検査によって偶然見つかります。憩室には腸の内容物が滞るので、細菌が増殖して憩室炎を起こしたり、血管が破れて憩室出血を起こすことがあります。憩室炎が起きると局所の腹痛や圧痛が生じ、さらに進行すれば発熱とともに白血球が増多し、ひびくような痛みが出現します。右側の大腸の場合は虫垂炎の症状と似ていますが、嘔吐嘔気を伴わないのが特徴です。安静と抗生剤の投与で治る場合が多いのですが、中には腹膜炎になり緊急手術を要することがあります。憩室炎が穿孔せずに長引く場合に膀胱と瘻孔(通路)をつくることがあり、この場合は尿路と腸管を分離するための手術が必要となります。憩室出血の多くはある程度出血し血圧が下がったら自然に止血します。安静と止血剤の点滴で収まることがほとんどです。出血が続く場合、診断と治療を兼ねて緊急大腸内視鏡検査で止血処置をしますが、血管造影で血管をつめる場合もあります。大腸憩室症の予防としては繊維分の多い食物を食べて、便通を正常に保つ事が第一です。大腸憩室症とわかっている方で強い腹痛や下血が起きた場合はすぐに医師の診察を受けるようにしてください。
虚血性大腸炎
虚血性大腸炎とは、大腸を栄養している血液の流れが不足し、弱くなった大腸粘膜が炎症を起こす病気です。原因として動脈硬化、高血圧、 糖尿病などの基礎疾患のために血管が細くなっているところに、大腸の血管が一時的にれん縮したり、便秘、浣腸や大腸内視鏡検査などで 負担がかかることにより起こると考えられています。比較的高齢の女性に好発します。症状は突然の腹痛(とくに左下腹部痛)、下痢と淡いサラッとした血便が特徴的です。発症後の経過から3つの型に分類されます。 ほとんどが短期間で治癒する一過性型ですが、炎症が治った後に大腸が狭くなる狭窄型、腹膜炎で緊急手術が必要な壊死(細胞が死んでいる) 型も少数ながらあり、初期の診断が大切です。診断には好発部位が肛門から近い左側の大腸のため、大腸内視鏡検査が有用です。多くの場合 大腸粘膜が炎症を起こして出血しており、典型例では縦に長い(縦走) 潰瘍を認めます。炎症が強い場合は大腸がんと区別がつきにくいこともあります。治療は血便が止まるまでは腸管安静のため禁食とし、徐々に 食事を開始し、発症後約2週間で元の生活に戻れます。壊死型では手術のタイミングを逃さないことが大切です。予防と日常生活については、 基礎疾患があるのでしたらその治療をすること、お腹を冷やさないようにすること、そして便秘をしないことが大切です。 詳しくは 【NHKテキストきょうの健康2019年8月号 p116 なんでも 健康相談「虚血性大腸炎は再発しますか」】 または【きょうの健康8月号】に石川副院長が掲載されます、ぜひご覧ください。
大腸クローン病
消化管全体に起こる原因不明の慢性の肉芽腫炎で、多くは高校生までに肛門周囲膿瘍、下血、腹痛や発熱で発症します。炎症が粘膜から筋層と深くなるにつれ、腸や皮膚と瘻孔を形成したり様々な合併症を起こします。腸管外の眼や皮膚に合併症を起こすことがあります。 難治性の痔瘻で発症するなど、肛門病変を半数に認めます。また、虫垂炎で発症することもしばしばあります。栄養状態の良い例は少なく、ほとんどは生来腸が弱いとされていた方です。病変のできる部位から小腸型、小腸大腸型と大腸型に分けられますが、小腸大腸型が大半を占めます。 治療の目標は、腸管の炎症を抑えて症状を鎮め寛解に導くこと(寛解導入)、そして炎症のない状態を維持すること(維持)になります。 治療は厚生労働省の治療指針に従って行います。まずは抗炎症薬、ステロイド、免疫調整薬や抗TNFα抗体製剤などの薬物療法や栄養療法(経腸栄養)の内科的治療が主体となります。これら内科的治療が有効でない場合や腸閉塞、穿孔などの合併症では外科治療が行われることもあります。厚生労働省の難病対策事業の対象疾患で、認定されれば公費負担されます。
潰瘍性大腸炎
直腸からの連続的なびらん、潰瘍を主体とする原因不明の表層性大腸炎で、60%は30才までにくり返す下血で発症します。他の腸炎との鑑別が大切です。経過から全大腸炎型、左側結腸炎型、直腸炎型に分かれます。多くは再燃と緩解をくり返します。重症になると貧血になり、発熱し脈拍が増え、血液検査で白血球などの炎症反応が上昇します。治療は厚生労働省の治療指針に従って行います。まずは抗炎症薬、ステロイド、免疫調整薬、血球成分除去療法や抗TNFα抗体製剤などの内科的治療が主体となります。これら内科的治療が有効でない場合やステロイド等の副作用のため治療が継続できない場合、さらに穿孔、大出血、がん化などの合併症が起こると外科治療が行われることがあります。一般に発症5年以降は少し軽快する傾向があるのですが、10年を越すと今度は癌化のリスクが生じます。大腸全摘術は潰瘍性大腸炎の根治術となりますが、肛門機能に影響が残ります。術後はデスモイド腫瘍の発生に注意が必要です。厚生労働省の難病対策事業の対象疾患で、認定されれば公費負担されます。
大腸と小腸の腸軸捻転症
腸軸捻転症は腸捻転症ともいい、腸管と腸管を栄養する腸間膜が捻れる病気で、腸に血流障害と腸閉塞が合わさった複雑な病態です。大腸の腸捻転は通常S状結腸が捻れることにより腹痛、腹部膨満や嘔吐が生じます。元々S状結腸が長く捻れやすい状態にあることが背景にあり、寝たきりの高齢者や精神疾患を有する方に多くみられます。腹部レントゲンとCTでのコーヒー豆様に基部がキュッとしぼんだ像で診断されます。大腸内視鏡を進めるとシャッター様に閉鎖された粘膜が螺旋状に開きだし、解除すると広い管腔がみえます。この捻転の整復後にくり返す場合は切除術が必要となります。重症では受診時に大腸が壊死し、腹膜炎になっていることもあります。小腸軸捻転症は腸間膜の主幹動脈の閉塞を伴うことが多く、より複雑で重篤な場合が多いです。その原因は、腸管回転異常や腸間膜固定不全などの先天異常、癒着、腫瘍、憩室などによる続発性、解剖学的異常や基礎疾患を有さない原発性、の3つに分類されます。原発性の発生原因は元々腸間膜が長く、腸間膜根部の幅が狭いことが指摘されており、地域性が報告されています(特にアラブ地域)。続発性の代表格は胃切除後で、切除したため腹腔内の空間が増え、加えて腸間膜に隙間が増えることとから小腸に軸捻転が生じやすくなっています。診断は造影CTで血管が渦巻き状に巻き込まれるホイールサイン(whirl sign)、腸管がくちばしのようにしぼまるビークサイン(Bird beak sign)が知られています。治療は手術が原則で、軸捻転の解除と血流の悪くなった腸を切除します。詳しくは 【NHKテキストきょうの健康2014年8月号 p128 なんでも健康相談「 大腸過長症といわれました 」】 をご覧ください。
肛門疾患(痔)
国民の約3人に1人が痔を持っているという報告があります。
その内訳では、内痔核(いぼ痔)が60%弱、裂肛(切れ痔)が約25%、残りが肛門周囲膿瘍及び痔瘻と血栓性外痔核になります。若い女性で多いのは裂肛です。これら4種類の痔は、臨床的に特徴がありますので、専門医なら問診だけで約90%が診断されます。
内痔核
現在、内痔核の成因は英国のトムソンが1975年に発表した支持組織減弱説(全体的に組織が弱り、肛門クッションが下降する)によると考えられています。この説では便秘と加齢が主な原因ですので、内痔核の治療としてまず生活療法として便秘の改善が大切です。 内痔核の程度は英国のゴリガーの分類によって判定されます。I度 : 出血のみ、II度 : 痔核が脱出するが、自然に肛門内に戻るもの、III度 : 痔核は脱出すると指で押し込まないと肛門内に戻らない、IV度 : 常時肛門から出ている状態、です。内痔核は肛門クッション(粘膜)そのものの脱出ですので、通常痛みはありません。
a. 痔核の薬物療法(座薬と軟膏)
I度とII度が良い適応です。同じ成分で座薬と軟膏がある場合、座薬は排便を促す力があるので、便秘の方は寝る前 に入れると翌朝いい便が出ます。痛みが強い時は軟膏がオススメです(裂肛がいい例です)。ステロイドが入っている薬の長期連用には注意が必要です。
b. ゴム輪結紮術
II度とIII度が良い適応です。専用の医療器具を使って痔核の根元を小さなゴム輪で縛り、血流を止めることで徐々に痔核を壊死させる治療法です。痔核はゴムと一緒に1週間ほどで自然と脱落します。痛みが少ない治療法で、麻酔を使わず外来で治療を受けられます。ただし、抗凝固薬を服用している場合や、痔核をうまく掴めない場合などには行うことができません。
c. ジオン硬化療法(ALTA)
II度からIV度が良い適応です。ALTAとは漢方薬成分を日本で精製したものです。炎症を起こしてからそれを抑える効果により、 肛門管粘膜を損傷せずに動脈をほぼ閉塞させます。次第に痔核は萎縮・消失し、緩んだ肛門クッションは癒着・固定されます。修練を受けた専門医が1つの痔核に4段階に分けて注射します。腎機能障害では慎重に適応を決めます。
d. 手術療法
19世紀半ばから外科手術が開始されました。当時は麻酔も清潔環境も抗生剤もない状態からのスタートでした。現在でも内痔核手術といえばミリガンモルガン法(1937年)がその代名詞です。痔核を肛門菅外へ引き出して血管を結紮し、 痔核を切除する方法です。支持組織減弱説が趨勢の現在では、肛門クッションを温存し、頭側に吊り上げる工夫が各施設で加えられています。
裂肛
裂肛は硬い便が通過する際に肛門の皮膚部分に傷ができたもので、血流の悪い背側と前方に好発します。皮膚ですので排便ごとに激しい痛みがあります。 急性裂肛と慢性裂肛の2つがあります。急性裂肛は浅い潰瘍ですので、下剤、軟膏と鎮痛剤で治癒します(誰しも一度は経験します)。慢性裂肛では便秘→硬便→切れるという悪循環になっている場合が多く、典型例では深い潰瘍に見張りいぼと肛門ポリープを伴い(3兆候)、 肛門狭窄になっています。内肛門括約筋にメスを入れたり、潰瘍部分を切除する治療を行います。
肛門周囲膿瘍及び痔瘻
肛門の皮膚と粘膜の移行部に炎症が起こり、膿がたまったものが肛門周囲膿瘍です。肛門周囲が腫れて激しい痛みが常時あり、 発熱します。痛くてとても椅子には座れません。外科で切開して膿を出すと、約半数は治癒します。残りは慢性化し、肛門括約筋を通って肛門の皮膚に瘻管(膿の通路)を作ります。これが痔瘻です。治療は手術しかありません。早く治すには瘻管を切開して開放するか、瘻管をくりぬく手術があります。ゆっくり治すには、瘻管に専用のゴムひもを通して縛り、ゴムが縮もうとする力を利用して、ゆっくり括約筋を切開します。時間をかけて少しずつ括約筋を切開していくため、切開されたところは治っていきます。これをシートン法といい、3ヶ月から半年必要です。
血栓性外痔核
アルコール多飲、スポーツ後等の翌朝に好発し、肛門に有痛性の腫瘤を触れます。 これは血管が破綻し血栓形成したものです。基本は保存的に治療しますが、極期で痛みが強い時は 局所麻酔下に血栓を摘出します。
まれですが、静脈瘤性の(大きな)外痔核もあります。
痔以外の肛門疾患については後述します。
内痔核治療の変還については成書をご参照下さい。