概要
脳卒中は出血性疾患と虚血性疾患に分けられ、虚血疾患について説明します。
虚血性脳血管障害は、脳への血流が一時的または永続的に阻害されることによって生じる症状群です。これは、脳の一部が十分な血液(酸素や栄養素を含む)を受け取ることができず、その結果として脳組織が損傷を受けることにより発生します。
「脳梗塞」と「脳梗塞になる前」の一過性脳虚血発作(TIA)があり、脳梗塞はさらに大まかに下記の3タイプに分別されます。TIAは脳の症状が一時的にでたが、数分から数時間で改善した状態で、脳梗塞は改善せず持続することで鑑別されますが、TIAは数日以内に脳梗塞へ悪化する可能性が高く、下記の症状が治ったからといって様子を見ず、すぐかかりつけ医へ受診してください。
起こりうる主な症状
- 意識障害:よびかけても返事ができない、目が片方にむいている
- 片麻痺:片腕の力が「だらんと」ぬけた。歩きづらく、片側に倒れそうになった
- 構音障害:舌がもつれた、ろれつが回らなくなった
- 言語障害: うまく言葉がでてこず、違う言葉がでたり、同じことを繰り返す
- 視覚障害: 片方の目が「すーっと」見えなくなった
ラクナ梗塞
脳の細い穿通枝の血管が閉塞し、脳梗塞に至る事が多く、範囲は小さいため症状も麻痺や構音障害などが多いです。点滴や投薬によって対応します。
アテローム血栓性脳梗塞
頸動脈の動脈硬化性狭窄が原因で発生した血栓が脳の主な血管につまります。多発の点状梗塞や場合によっては中程度の血管を閉塞させます。脳の治療に加えて、血栓が発生した頸動脈の外科治療も必要になります。
心原性脳塞栓症
主に不整脈で心臓内に血栓が発生し、脳の大血管に詰まることで、広い範囲の脳梗塞をきたした場合は、神経症状も重症になるため緊急の治療が必要になる事があります。
治療
脳梗塞治療は再発予防のための投薬加療と外科手術、緊急での血栓溶解剤、カテーテル治療にわかれます。ここでは血栓溶解剤、外科手術やカテーテル治療について病気のタイプごとに説明します。
急性脳主幹動脈閉塞について
脳梗塞の前段階である脳虚血(ペナンブラとよびます。)の状態であれば、血流が再開すれば、脳梗塞に至ることを防ぎ、状態の改善が期待できるため治療の目的は脳梗塞が完成する前に、閉塞した閉塞した血管を再開通させ、脳梗塞の進行を予防ないし最小限にする事です。発症から4.5時間以内が担保されている場合は、出血の既往など禁忌事項がなければ、強力な血栓溶解剤を投与し、閉塞したままであれば、そのままカテーテルによる血栓回収に移行します。血栓溶解剤が適応外の場合や、4.5時間経過してる場合はカテーテル治療単独で治療します。起床時発症など発症時間が明瞭でない場合は症状や画像を総合的に判断し、最終の健常確認から24時間以内であれば状態に応じて血管内治療を行う事があります。
血栓溶解剤 rt-PA(recombinant tissue plasminogen activator)
発症時間が明確で、CTで出血がないことを確認し、採血など禁忌事項がないことを確認して投与するため、実質発症から病院到着までは3時間半程度以内が目安となります。
市民・患者・家族への啓発に加え、救急隊との協力、検査も多職種の協力が必要なため院内体制の構築の上に成り立ちます。
血栓回収について
閉塞している血管の中に直径1mm程のカテーテル(治療用の管)を入れて、ステント型のデバイスを用いて血栓を捕獲する方法や専用の吸引カテーテルで血栓を吸引除去する方法を用いる事が一般的です。
頸部内頚動脈狭窄症について
頸動脈狭窄症の患者さんでは、プラーク表面に出来た血液の塊(血栓)や、プラークの破片が血流に流されて、その先の脳血管が詰まると脳梗塞になります。(図2)また、狭窄率が高くなると、脳へ送る血流の勢いが低下することによって、脳梗塞になることもあります。
手術について
内膜剥離術
全身麻酔のもとで頸動脈を切開してプラークを摘出します
- プラーク自体を摘出して血管を広げる治療である
- 手術に伴う脳梗塞(合併症)発生率は低い
- 全身麻酔が必要であり全身への負担は大きい
- 頚部に手術創が残る
- 高齢者で全身麻酔がかけられる例ではステント治療より安全である
プラークを剥離
プラーク摘出後
ステント留置術
風船付きのカテーテルで拡張した後に、金属を円筒状に編みこんだ治療用器材(ステント)を狭くなっていた部分に置いてくることで血管拡張を目指します。
- 狭くなった血管をステントにより押し広げる治療である
- 再発率は血栓内膜剥離術より高い!(血管撮影、エコーでの精査継続が必要)
- 局所麻酔で治療できるため全身への負担が少ない
- プラークの性質によっては手術に伴う脳梗塞(合併症)に注意が必要
- 造影剤を使用するためもともと腎臓の悪い患者さんは注意が必要