膠原病
膠原病とは
日本リウマチ学会ホームページより引用 https://www.ryumachi-jp.com/
「膠原病」は、本来自分の体を守るはずの免疫システムに異常が起きて、自分自身のからだを攻撃してしまう「自己免疫疾患」の病気の総称です。1942年に、アメリカの病理学者であるPaul Klemperer(1887-1964)が、顕微鏡を使った検査で、全身の結合組織(骨・軟骨・腱など)や血管に「フィブリノイド変性」と呼ばれる特徴的な所見が認められるいくつかの病気を発見し、それらを「膠原病」と呼ぶことを提唱しました。
膠原病を発症する原因は、 冒頭で記載した通り「免疫」の異常にあると考えられています。私たちの体には、細菌やウイルスのような異物を排除し、自分を守るための「免疫」という機能が備わっていますが、膠原病の患者さんの体の中では、免疫機能に異常が起こり自分の体を異物とみなして攻撃する細胞(自己反応性リンパ球)や、蛋白質(自己抗体)が存在し、これらが皮膚や筋肉、関節、内臓、血管などに炎症を起こすと考えられています。膠原病の症状には、発熱、全身倦怠感などの全身症状や、関節や筋肉の痛み、皮疹、息切れなどがあります。熱が続いたり、原因のわからない関節痛や筋肉痛、皮膚症状がみられたりする場合は、一度専門医にご相談いただければと思います。
腎臓内科で診る膠原病について
膠原病によって炎症を起こしやすい臓器には特徴がありますが、ここでは腎障害をきたしうるものの中でも比較的頻度が高い以下の3疾患をご紹介します。
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- シェーグレン症候群
- 強皮症
1.全身性エリテマトーデス(SLE)
本疾患は、英語でsystemic lupus erythematosusといい、その頭文字をとってSLEと略して呼ばれます。systemicとは、「全身の」という意味で、この病気が全身のさまざまな場所、臓器に、多彩な症状を引き起こすということを指しています。lupus erythematosusとは、皮膚に出来る発疹が、狼に噛まれた痕のような赤い紅斑であることから、こう名付けられました(lupus、ループス:ラテン語で狼の意味)。発熱や全身倦怠感などの炎症を思わせる症状と、関節、皮膚、そして腎臓、肺、中枢神経などの内臓のさまざまな症状が一度に、あるいは経過とともに起こってきます。
<特徴>
- 男女比:平均すると男女比は1:9ほどで、圧倒的に女性に多い病気です。
- 発症年齢:すべての年齢で発症しますが、特に20-40歳に多いとされています
- 原因・病態:この病気の患者さんのほぼ全員(98-99%)が、血液中に抗核抗体という 自己抗体 をもっています。自分自身の細胞の中にある核の成分と反応してしまう抗体です。この抗体が、自分の細胞の核の物質と反応し、免疫複合体(抗原と抗体が反応してできる多分子結合体)という物質を作って、全身の皮膚、関節、血管、腎臓などに沈着して病気が引き起こされるのが主な病態と考えられています。このほか、免疫を司るリンパ球が直接、自分の細胞、組織を攻撃することもあると考えられています。
<症状>
- 一般的に全身症状、皮膚や関節症状がほとんどの患者さんに見られるとされており、そこに様々な内臓の障害が加わることがあります。しかし症状は患者さんごとに大きく異なり、内臓の症状が全くない軽症のタイプの方もおられます。
- 全身症状:発熱、全身倦怠感、易疲労感、食欲不振など
- 関節症状:手や指などの関節が腫れて痛いなど
- 皮膚症状:顔面や耳、頭部、関節背面に発疹 特に頬にできる赤い発疹(蝶が羽を広げている形:蝶形紅斑)が有名
- 日光過敏症:日光にあたった後に皮膚に赤い発疹や水膨れ、熱が出るなどの症状
- 痛みのない口内炎
- 脱毛
- 臓器障害:腎障害(ループス腎炎)、神経精神症状、心臓、肺、消化器病変、血液異常など
上に示したように、SLEでは様々な症状が出ますが、腎臓内科には上記の症状に加えて血液検査で腎機能障害、尿検査で尿蛋白、尿潜血陽性などを指摘された患者様が受診されます。
蝶形紅斑
<診断>
SLEにはいくつかの分類基準がありますが、そのうち最新の分類基準を下記に記載します。
血液検査や尿検査、また腎機能障害や検尿異常がある場合は腎生検を行うことで確定診断がなされます。
特異的な自己抗体として抗ds-DNA抗体や抗Sm抗体が知られています。
・EULAR/ACRによるSLE分類基準(2019)
出典: 2019 European League Against Rheumatism/American College of Rheumatology Classification Criteria for Systemic Lupus Erythematosus.
Arthritis Rheumatol. 2019 Sep;71(9):1400-1412. doi: 10.1002/art.40930. Epub 2019 Aug 6. PMID 31385462
<治療>
SLEの治療は自分自身に対する免疫を抑えるため、免疫抑制効果のある薬を使います。
- 副腎皮質ステロイド
腎臓の上にある副腎皮質という場所から出ているホルモンを化学的に作ったもので、代表的なものはプレドニゾロンです。一日5mg相当のホルモンが体内から出ていますので、5mgのプレドニゾロンを飲むということは、自分自身が毎日作っている量と同じ量を補うことになります。投与量は体格や重症度などによって異なりますが、最初2週間から1ヵ月は同じ用量を続け、徐々に減らして5mg前後を維持療法として長期に飲み続けることが多いです。ステロイドの副作用として、感染症にかかりやすくなること、骨粗しょう症による圧迫骨折や糖尿病、脂質異常症に伴う動脈硬化などがあります。これらの副作用を最小限にするには、必要に応じて免疫抑制薬を併用しながら、できる限りステロイドの使用量を減らすことが重要とされています。
- 免疫抑制薬
ステロイドが効果不十分か、副作用が強い場合に、免疫抑制薬を使うことがあります。アザチオプリン、シクロホスファミド、タクロリムス、シクロスポリンA、ミゾリビンなどです。2015年よりSLEによる腎障害(ループス腎炎)に対し、ミコフェノール酸モフェチルの適応拡大が認められました。また、世界的に標準的治療として用いられてきたヒドロキシクロロキンが2015年に日本でも承認されました。皮膚症状や倦怠感などの全身症状での軽減に効果が認められています。さらに2017年にベリムマブというB細胞を標的とした生物学的製剤が、2021年にはアニフロルマブというI型インターフェロンの受容体を標的とした生物学的製剤が承認されました。生物学的製剤は生物から産生される抗体を人工的につくり、医薬品として開発されたものです。いずれも皮膚症状や関節症状などの全身症状の改善やステロイドの減量効果が認められています。
2.シェーグレン症候群
本疾患は、涙腺と唾液腺を標的とした自己免疫疾患ですが、全身の臓器に病変が伴うこともあります。シェーグレン症候群はそのほかの膠原病と合併する二次性シェーグレン症候群と、膠原病の合併がない一次性シェーグレン症候群に分類されます。さらに一次性シェーグレン症候群は病変が涙腺、唾液腺に限局する腺型と、病変が肺・腎臓・膵臓・皮膚・血液・末梢神経など全身臓器に及ぶ腺外型に分けられます。ここでは主に一次性シェーグレン症候群について記載しています。
<特徴>
- 男女比:平均すると男女比は1:17ほどで、女性に多い病気です。
- 発症年齢:年齢層は50歳代にピークがあるとされていますが、頻度は少ないですが子供から80歳の老人まで発症することもあります。
- 原因・病態: SLEと同様、自分の身体の成分に対して免疫反応を起こすことによる疾患です。遺伝的要因、ウイルスなどの環境要因、免疫異常、さらに女性ホルモンの要因が考えられており、これらの4つの要因が複雑に関連しあって発症するとされています。
<症状>
- 目の乾燥(ドライアイ)
- 口の乾燥(ドライマウス)
- 鼻腔の乾燥
- その他:唾液腺の腫れと痛み、息切れ、発熱、関節痛、脱毛、肌荒れ、夜間頻尿、皮疹、疲労感、頭痛など
シェーグレン症候群では主に目や口の乾燥症状が見られますが、腎臓内科には上記の症状に加えて血液検査で腎機能障害、尿検査で尿蛋白、尿潜血陽性などを指摘された患者様が受診されます。
<診断>
診断は下に記載している1999年の厚生労働省の改訂診断基準を用いて行われるため、血液検査に加えて口腔検査や眼科検査などを受ける必要があります。腎機能障害や検尿異常が認められている場合はSLEと同様、腎生検を行うことで腎機能障害の原因に関して確定診断がなされます。
1999年厚生労働省 シェーグレン症候群診断基準
出典:藤林 孝司, 菅井 進, 宮坂 信之ほか編 : シェーグレン症候群改訂診断基準.厚生省特定疾患免疫疾患調査研究班, 平成10年度研究報告書、 1999;135-138
<治療>
現状では根本的にシェーグレン症候群を治癒させることができないため、治療は乾燥症状を軽減させることと疾患の活動性を抑えて進展を防ぐこととなります。
- ドライアイに対して:点眼薬
- 口腔乾燥に対して:唾液の分泌を刺激するもの(レモンや梅干し)、促進する薬剤を使用、人工唾液による唾液補充、虫歯予防、口腔内環境の改善
- 全身病変(涙腺や唾液腺以外の臓器障害)に対して:腎臓をはじめとする臓器(肺、筋肉、神経、血管など)の活動性病変がある場合にはステロイド、免疫抑制薬を使用(ステロイドや免疫抑制薬に関する解説はSLEの<治療>を参照)
3.強皮症
強皮症は皮膚が硬くなる変化を代表的な症状とする病気で、内臓にも変化をともなう全身性強皮症と、皮膚とその下部の筋肉のみをおかす限局性強皮症の二つのタイプにわけられます。両者は全く異なる疾患であり、ここでは腎障害をきたしうる全身性強皮症についてのみ説明します。
<特徴>
- 男女比:平均すると男女比は1:12ほどで、女性に多い病気です。
- 発症年齢:年齢層は30-50代であり、ごく稀に小児期や70歳以降の高齢者に発症することもあります。
- 原因・病態:①免疫異常(自己抗体の産生)、②線維化(繊維化細胞の活性化で生じる)、③血管障害の3つが主な原因であることが知られています。それぞれの異常については研究の進歩によるだんだんとわかってきましたが、まだこの3つの異常がどのように影響し合っているかなどについては明らかにはなっていません。
<症状>
強皮症の症状や経過は患者様によって様々なパターンがありますが、まずは下に示したレイノー現象から始まり、その数ヶ月〜数年後に皮膚効硬化が明らかになってくることが多いです。発症後20年以上経っても臓器障害や日常生活に支障をきたさない方もいれば、1年以内に腎障害などの臓器障害をきたす方もおられます。
- レイノー現象:冷たいものに触れたり、寒いところなどで手指が蒼白〜紫色になる
- 冬に多く、初発症状として最も多い
- 皮膚硬化:手指の腫れた感じから始まり、人によっては手のこわばりを伴う
- 他の皮膚症状:指先の少しへこんだ傷跡、指先や関節背面の潰瘍、皮膚の色が黒くなるなど
- 強皮症腎クリーゼ:腎臓の血管に障害が起こり高血圧が生じる、頭痛や吐き気、視力障害
- 尿の量が少なくなるなど
- 間質性肺疾患:ひどくなると空咳や息苦しさが起こる
- 逆流性食道炎:胸焼け、胸のつかえなど
- その他の症状:手指の屈曲・拘縮、関節痛、便秘、下痢など
- 腎臓内科には、強皮症の患者様の中でも吐き気や頭痛、尿が出ないなどの症状で病院受診された際に血圧上昇、腎機能障害が認められた場合に、強皮症腎クリーゼを疑われ紹介されます。
<診断>
強皮症にも前述した2疾患と同様に診断基準があり、皮膚やその他の臓器病変と、血液検査でわかる自己抗体を見て診断されます。
出典:日本皮膚科学会、全身性強皮症 診断基準・重症度分類・診療ガイドライン委員会編:全身性強皮症 診断基準・重症度分類・診療ガイドライン、日本皮膚科学会雑誌:126(10);1831-1896, p1831, 2016
腎臓内科で診療する強皮症腎クリーゼについては、血液検査や尿検査で同様の症状をきたしうる他の疾患を除外した上で臨床的に診断がなされることが多いです。腎生検については高血圧などによる出血のリスクが大きいことが多いため、血液検査や尿検査などで他の疾患が原因である可能性が考えられる場合に行われます。
<治療>
現在のところ全身性強皮症を完全に治す薬剤はありませんが、ある程度の効果を期待できる治療法が開発されてきました。特に発症から5-6年以内の全身性強皮症では治療効果が最も期待できます。ここでは皮膚病変と強皮症腎クリーゼに対しての治療法について記載します。
皮膚硬化に対して
- ステロイド
- リツキシマブ:我々の免疫を担う抗体を作るB細胞を除去する生物学的製剤
強皮症腎クリーゼに対して
- ACE阻害薬:血圧を下げる薬
まとめ
ここでは、腎臓内科で診療する機会のある膠原病についてご紹介しました。上記に示した症状が認められたら医療機関を受診し、腎機能障害や検尿異常を指摘された場合は腎臓内科を受診してください。腎生検の必要性やその後の治療法については患者様一人一人の状態に合わせて慎重に検討させていただきます。