肝臓の病気というと、一般にB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスなどの肝炎ウイルスによるウイルス性肝炎やお酒の飲み過ぎによるアルコール性肝障害などを考えますが、最近、それらに関係なく発症する肝臓病として、非アルコール性脂肪性肝疾患(Nonalcoholic fatty liver disease、それぞれの頭文字を取ってNAFLD、ナッフルドやナッフルディーと呼ばれています)や非アルコール性脂肪肝炎(Nonalcoholic steatohepatitis、それぞれの頭文字を取ってNASH、ナッシュと呼ばれています)が注目されています。それらは、進行すると肝硬変や肝がんになる恐れもあります。
「脂肪肝」という言葉は多くの方に知られているでしょう。その脂肪肝は原因によって分類されており、ひとつはお酒の飲み過ぎによる脂肪肝で、アルコール性脂肪肝と呼ばれます。2020年に日本消化器病学会と日本肝臓学会が編集して発刊されたNAFLD/NASH診療ガイドライン2020に記載されている内容を参考にすると、肝臓を構成する肝細胞(かんさいぼう)の5%以上の細胞の中に脂肪が溜まっている状態を脂肪肝というとされています。また、飲酒が原因なのか、そうでないかは、お酒に含まれるアルコールの量によって区別されており、飲酒を原因としない脂肪肝、つまり「非アルコール性」である定義は、飲むお酒に含まれるアルコールであるエタノール(エチルアルコール)に換算して1日あたり男性で30グラム以下、女性で20グラム以下の飲酒に留まっていることとされています。
成因
非アルコール性の脂肪肝の原因としては、食生活や運動といった生活習慣の乱れや内臓肥満、ストレス、昼夜逆転の仕事などが原因で脂肪肝となります。顕微鏡で肝臓の細胞を見ると、肝細胞のなかに油の粒がパンパンに溜まっているのを確認できます(図1)。「わたしは食事でも油物はほとんど食べないのにどうして肝臓に脂肪が溜まるの?」とご質問を頂戴することがあります。油物をたくさん食べていなくとも、糖分(砂糖や果糖)や炭水化物でも必要以上を摂取すると、それらを構成する糖質は中性脂肪に形を変えて肝細胞の中に蓄えられますので脂肪肝は発症します。
この段階ではまだ肝臓の細胞の多くは壊れていません。しかし、NAFLDを放置すると、だんだん肝臓の中の環境が悪くなり、一部のひとでは肝細胞が風船のように腫れて弱ってしまい、やがてそれらの細胞は壊れてしまいます(肝細胞の風船化と言います)。その働かなくなった肝細胞を片付けるために肝臓で白血球の仲間が集まり、その結果が炎症として「肝炎」が起きてしまいます。それが長い時間続けば、肝臓は炎症による破壊とその後の修復を繰り返すことによって、肝臓が硬くなる、線維化という現象が起きます。これが、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)です(図2)。NAFLDの中でも肝硬変や肝がんに進行するリスクが高い状態がNASHであると考えられています。
現在、国内での正確な患者数はわかっていませんが、健診や人間ドックを受ける人でNAFLDに罹患している人が約25%であることから、推定で2000万人前後の潜在患者がいると考えられています。NASHに進行するのはそのうちの約25%と推定されています。肝がんの成因として、B型肝炎やC型肝炎が原因ではない、いわゆる非B非Cの肝がんの頻度が全国的に確実に増え続けていますが、その成因としてNAFLDが注目されています。
生活習慣病との関係
NAFLDの原因のほとんどは、生活習慣の乱れやストレス、運動不足など、メタボリックシンドドロームの原因と似ています。肝臓が生活習慣の乱れで被害を被って、悲鳴をあげている状態です。内臓脂肪組織は余分な栄養を脂肪として蓄えるために存在し、人体最大の内分泌臓器とも言われています。ひとたび脂肪が溜まりすぎて内臓肥満の状態になると、余計な脂肪酸や全身に炎症を起こすと考えられている悪玉ホルモン(TNF-αやインターロイキン6などの炎症を起こすサイトカイン)を分泌します。この悪玉ホルモンが過剰に肝臓へ流れ込むことによって、肝臓でも炎症や不純物の処理が追いつかない状態になり、それを処理するため酸化ストレスという肝臓の環境が悪化した状態が発生し、さらに炎症が強くなっていきます。内臓肥満は肝臓だけではなく全身に影響を与えており、例えば心筋梗塞や脳梗塞等といった病気の原因である動脈硬化の進行を早めたり、糖尿病やそれらの合併症の悪化に影響を与えたりすることも分かっています。また大腸がん、膵臓がん、子宮がんの発生にも影響を及ぼしていることが分かっています。実際にNAFLD患者さんの死因として、肝硬変や肝臓がんに加えて、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患や、肝臓以外のがんが多いことが分かっています。 さらに、NAFLDの発症や悪化には体質(遺伝的な原因)や腸内細菌など、肥満や生活習慣以外の要因も影響することが明らかになってきました。したがって、肥満ではないのに、NAFLDであるひとも決して少なくはありません。日本では、NAFLD患者さんの約20%が非肥満であると推定されています。PNPLA3という遺伝子は、肝臓の細胞の中の、脂肪を処理する機能において重要な働きをしています。PNPLA3の働きが弱い遺伝子型を持つ人の割合は、日本人では比較的高く、30%前後と推定されています。日本人における非肥満のNAFLD患者さんの割合が高く、またNAFLDの患者さんの死因として、欧米よりも肝硬変や肝臓がんが多い理由の一つと考えられています。
発がんについて
前述の通り、NAFLDからNASHを発症し、肝臓の細胞が長い時間壊れ続け、進行すると次第に線維化を起こし肝臓はだんだん硬くなっていきます。さらにこれを放置すると、10年後には10~20%が肝硬変になり、肝硬変にまで進行すると年率で数%に肝がんが発生すると言われています。また肝硬変まで進行していなくても肝がんが発症してしまうこともあります。またNAFLDは、糖尿病や高血圧症、脂質異常症等といった生活習慣病や脳梗塞や心筋梗塞の原因と言える動脈硬化とも密接に関係しています。特に糖尿病はNAFLDやNASHからの肝臓がん発症のリスクも高めます。脂肪肝にならないように予防すること、脂肪肝かどうかきちんと検査を受けて確かめること、脂肪肝と言われたら放置しないで検査や治療を受けることが大切です。
検査について
肝臓は沈黙の臓器と言われている通り、他の肝臓病と同様にNAFLDもほとんど自覚症状はありません。また現在のところ通常の血液検査ではNAFLDを確実に診断する検査項目はありません。肝機能検査で代表的なALT (GPT)値が低くてもNAFLDで、時には肝硬変やそれに近い状態の場合があり、逆に数値が高くても病状が進行していない人もいます。健康診断で肝機能の数字が高くないからといって、NAFLDではないとは限りません。肥満や肥満傾向がある人、高血圧、脂質異常症(悪玉コレステロールや中性脂肪が高い方)、糖尿病、高尿酸血症などの生活習慣病やそのリスクがある人は、必ず脂肪肝の有無を、腹部超音波検査(腹部エコー検査)で行いましょう。腹部エコーでは正常の肝臓と比べて肝臓に脂肪が溜まると肝臓は白く輝いて見えます。また画像の奥が見えにくくなり、となりの臓器である腎臓と比べて肝臓はより白く見えます(図3)。また最近の腹部エコーの装置には、その肝臓の脂肪化の程度を数値で示す機能を備えた装置も出てきており、現在、日常診療の場でも使われるようになってきました(図4)。保険適応となっている検査もあり、脂肪肝と言われた方や気になっている方は是非、主治医の先生にご相談ください。