胃食道逆流症(英語表記 Gastro Esophageal Reflux Disease から GERD(ガー ド)とも呼ばれています)は、主に胃のなかの酸が食道へ逆流することにより、胸やけや呑酸(酸っぱい 液体が上がってくる感じ)などの不快な自覚症状を感じたり、食道の粘膜がただれたり (食道炎)する病気です。胸が詰まるような痛みを感じたり、のどの違和感や慢性的に 咳が持続する患者さんもいます。胃酸の逆流は食後 2~3時間までに起こることが多いです。 胃食道逆流症には、①食道炎がなく自覚症状のみがあるタイプ(これを「非びらん性逆流症」といい、英語表記 Non-Erosive Reflux Disease から NERD(ナード)とも呼ばれています)、 ②食道炎があり、なおかつ自覚症状があるタイプ、③自覚症状はなく、食道炎のみがあるタイプの3種類に分けられます(食道粘膜にただれが存在する ② ③ を「逆流性食道炎」といいます )
<出典 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会ホームページ「胸やけ(逆流性食道炎)の原因は内視鏡でわかりますか?より転載>
胃食道逆流症は、最も有病率の高い胃腸の病気の一つです。食生活の欧米化、日本人でも胃酸を分泌する能力が高くなったこと、ピロリ菌感染率が減少して元気な胃(胃酸が活発に出る胃)を持つ人が多くなってきたことなどから患者さんの数が増加してきました 。現在では成人の10~20%がこの病気にかかっていると考えられています。胃食道逆流症の患者さんでは、健康な人に比べて日常生活の質( QOL)が低下しているといわれています。GERDの原因として表1のようなものが挙げられています。
表1:GERDの原因となるもの
病態 | 病態を引き起こす要因 | 原因 |
1.胃酸分泌が多い | ピロリ菌がいない状態 | ピロリ菌が未感染、ピロリ菌の除菌治療後、自然排菌、他 |
高脂肪食の摂取 | ||
2.胃酸が長時間食道に留まる | 食道の蠕動運動の低下 | 加齢、膠原病、アカラシア、他 |
唾液の分泌量の低下 | 加齢、膠原病、他 | |
3.胃酸の逆流防止機能の障害 | 食道裂孔ヘルニア | 加齢、他 |
腹圧の上昇 | 肥満、妊娠、便秘、亀背(腰が曲がった状態)、前屈、他 | |
嚥下に伴わない逆流防止機能の弛緩 | 暴飲暴食、高脂肪食、他 | |
胃運動能の低下 | 加齢、胃蠕動運動の低下、胃排出遅延、他 | |
薬剤 | 狭心症治療薬(亜硝酸薬)、高血圧治療薬(カルシウム拮抗薬)、他 | |
4.食道粘膜が過敏 | 食道粘膜の知覚が過敏、他 | |
ストレス、他 |
<出典:一般社団法人 日本消化器内視鏡学会ホームページ「胸やけ(逆流性食道炎)の原因は内視鏡でわかりますか?」より転載>
検査
胃食道逆流症は、自覚症状と上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)により診断されます。胸やけ、呑酸などの逆流症状があり内視鏡検査で食道粘膜のただれ(逆流性食道炎)(図1 B)を認めれば診断されます。なかには逆流性食道炎はあるけれども自覚症状のない人、自覚症状はあるけれども逆流性食道炎のない人(非びらん性逆流症)(図2)もいます。これらはすべて胃食道逆流症と診断されます。
左より図1A、図1B
図1A.逆流性食道炎を認めない食道・胃接合部
図1B.逆流性食道炎:黄色矢印が病変部(びらん)
図2. 非びらん性胃食道逆流症: 黄色矢印が病変部(発赤を認める)
<出典:一般社団法人 日本消化器内視鏡学会ホームページ「胸やけ(逆流性食道炎)の原因は内視鏡でわかりますか?」より転載>
治療
胃食道逆流症に対する治療では、胃酸の分泌を抑えるお薬が有効です。自覚症状や食道炎の程度に応じて、酸分泌を抑える標準的なお薬であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)とより強力に酸分泌を抑えることができるお薬であるカリウムイオン競合型 アシッドブロッカー(P-CAB)の2種類が使われます。また、そのほかに酸を中和したり、粘膜を保護するお薬や、胃の内容物の逆流を抑えるためのお薬(消化管運動改善 薬や漢方薬)が一緒に使われることもあります
詳細は消化器病学会編「患者さんとご家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイド2023」をご覧ください