食道がんは、食道の内面をおおっている粘膜の表面からできます。食道のどこにでもできる可能性がありますが、約半数が食道の中央付近からできます。また、食道内にいくつも同時にできることもあります。
食道の壁の粘膜内にとどまるがんを早期食道がん、粘膜内から粘膜下層までのがんを食道表在がんと呼びます。
食道の粘膜から発生したがんは、大きくなると食道の外側へと広がっていき(浸潤)、食道の壁を越えて気管や大動脈などの周囲の臓器にまで直接広がっていきます。また、食道の壁内にあるリンパ管や血管にがんが浸潤し、リンパ液や血液の流れに乗って、食道外にあるリンパ節や肺、肝臓などの他の臓器へと移っていきます。これを転移といいます。
<出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター>
<出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター>
症状
食道がんは、初期には自覚症状がないことがほとんどです。がんが進行するにつれて、飲食時の胸の違和感、飲食物がつかえる感じ、体重減少、胸や背中の痛み、咳、嗄声(声のかすれ)などの症状が出ます。
胸の違和感は、早期発見のために注意しておきたい症状です。飲食物を飲み込んだときに胸の奥がチクチク痛む、熱いものを飲み込んだときにしみる感じがするといった症状があります。これらの症状は一時的に消えることもあります。
がんが大きくなるにつれて、食道の内側が狭くなると、飲食物がつかえやすくなり、次第に軟らかい食べ物しか通らなくなります。がんがさらに大きくなると、食道をふさいで水も通らなくなり、唾液も飲み込めずに戻すようになります。飲食物がつかえると食事の量が減り、体重が減少します。
がんが進行して食道の壁を越え、周囲にある肺・背骨・大動脈などに浸潤すると、胸の奥や背中に痛みを感じるようになります。また、食道がんが大きくなり、気管や気管支を圧迫したり、気管や気管支などに浸潤したりすると、その刺激によって咳が出ることがあります。また、声帯を調節している神経に浸潤すると声がかすれることがあります。
なお、胸や背中の痛み、咳、声のかすれなどの症状は、肺や心臓、のどなどの病気でも起こります。このような症状がある場合には、肺や心臓、のどだけでなく、食道の検査も受けることが大切です。内科や消化器内科などの身近な医療機関を受診するようにしましょう。
検査
食道がんが疑われた場合には、まず、「がんかどうかを確定するための検査」を受けます。がんであることが確定した場合には、治療方針を決めるために「がんの進行度(進み具合)を診断する検査」を受けます。
食道がんを確定するための検査には、上部消化管内視鏡検査と上部消化管造影検査の2種類があります。上部消化管内視鏡検査は、上部消化管造影検査で見つけにくい無症状、あるいは初期の食道がんを発見することもできます。
治療方針を決めるために、がんの進行度を診断する必要があります。食道がんの進行度を診断する検査では、がんの深さや周辺臓器への広がり、リンパ節や肺・肝臓などへの転移の有無を調べます。そのための検査として、食道がんを確定するための検査に加えて、超音波内視鏡検査、CT検査、MRI検査、超音波(エコー)検査、PET検査などが行われます。
ステージと治療選択
治療は、がんの進行の程度を示すステージ(病期)やがんの性質、体の状態などに基づいて検討します。
1)ステージ分類
ステージ(病期)は、ローマ数字を使って表記することが一般的で、食道がんでは早期から進行するにつれて0期〜ⅣA、ⅣB期まであります。なお、ステージのことを進行度ということもあります。
ステージは、次のTNMの3種のカテゴリー(TNM分類)の組み合わせで決まります(表1)。
Tカテゴリー:原発腫瘍*の広がり(深達度)(図)
Nカテゴリー:領域リンパ節(食道の近くにあるリンパ節)に転移したがんの個数
Mカテゴリー:遠隔転移(がんができた場所から離れた臓器やリンパ節への転移)の有無
*原発腫瘍とは、原発部位(がんが初めに発生した部位)にあるがんのことで、原発巣ともいわれます。
<出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター>
進行度分類は、治療方針を決めるときに使う「臨床的進行度分類」と、切除した病変を病理診断し、実際のがんの広がりを評価した「病理学的進行度分類」があります。また、食道がんは扁平上皮がんと腺がんでは、進行度分類が異なります。
このページでは、扁平上皮がんの臨床的進行度分類を掲載しています(表)。食道胃接合部の腺がんの場合は、胃がんの病期分類に従って進行度を判断します。
<出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター>
2)治療の選択
(1)0・Ⅰ期の治療
<出典:国立研究開発法人 国立がん研究センターが「日本食道学会編、食道癌診療ガイドライン2022年版、金原出版」をもとに作成>
粘膜にとどまるがんでは、食道を温存できる内視鏡的切除が標準治療として推奨されています。内視鏡的切除の対象は、リンパ節転移のない0期の早期食道がんのうち、食道の全周に及んでいないがんか、全周に及んでいる場合は長さが5cm以下のがんです。
内視鏡的に切除したがんを含む組織は、病理検査で詳細に調べます。がん細胞が粘膜下層に浸潤している、リンパ管や静脈に侵入しているなど、がんが残っている可能性やリンパ節転移の可能性が高いと判断された場合は、内視鏡的切除後に化学放射線療法や手術を行う場合があります。
<出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター>