好酸球性消化管疾患は、炎症が起きる部位によって、大きく2つに分かれます。 食道に炎症が限局した好酸球性食道炎と、それ以外にも炎症がある好酸球性胃腸炎です。
1)好酸球性食道炎
好酸球というアレルギー反応に関与する白血球が、食道にたくさん集まって慢性的な炎症を生じさせる病気です。炎症の持続により食道の運動が悪くなり、食事が通りにくくなり、つかえる感じや胸やけ、胸痛などの症状を生じます。日本では、まれな病気と考えられていましたが、最近、健診などで胃カメラを受けた際に診断される割合が増加しています。好酸球が食道だけに集まった場合に好酸球性食道炎と言います。胃や腸にも集まって炎症が起きている場合には、好酸球性胃腸炎と診断されます。
検査
好酸球性食道炎は以下のことによって診断されます。
- 食道の働きの低下を示す嚥下(えんげ)障害や食事のつかえ感などの症状がある。
- 上部消化管内視鏡検査で食道から組織を採取(生検)し、顕微鏡で観察すると好酸球が多数集まっている。
- 食道に好酸球が集まる他の原因(好酸球増多症候群、薬剤が原因となるもの、炎症性腸疾患など)を除外する。
治療
最初に用いられるのは胃酸の分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬:PPI)です。この薬は逆流性食道炎や胃・十二指腸潰瘍でも用いられる薬です。胃酸の分泌を抑えることで、食道のバリア機能が改善してアレルギー反応を抑える効果があると考えられており、服用によって約6~7割の患者さんは症状や食道の炎症が改善します。
PPIで効果がない場合は、喘息で用いられるステロイド吸入薬を、吸入するのではなく、飲み込んで食道に付着させる、局所ステロイド治療を行います。
<出典:国立成育医療研究センター 好酸球性消化管疾患 患者さん用情報WEBサイトより(2024年6月現在)>
2)好酸球性胃腸炎
消化管に炎症が起きて様々な症状を引き起こす病気で、いずれの世代でも発症する可能性があります。はき気、嘔吐、腹痛、腹部の張り、血便、腹水などの症状が一カ月以上続きます。消化管内視鏡検査を行って、小さい組織を採取し、顕微鏡で見て、好酸球という細胞が胃、小腸、大腸などに集積しているときに診断されます。 標準治療は、ステロイド内服ですが、軽症は抗アレルギー剤も有効といわれています。
好酸球性胃腸炎の病気が続く期間は、患者さんによって大きく以下の3つに分かれます。持続型(じぞくがた)や間歇型(かんけつがた)の患者さんは、日常生活を送るために、適切な治療を選択する必要があります。
持続型 (じぞくがた) | 症状が少なくとも半年以上、多くは数年以上続く。治療なしに症状が完全に良くなることは少ない。 |
間歇型 (かんけつがた) | 症状は、半年以内で完全に良くなって、いったんは治療が必要なくなるが、再発を繰り返す。 |
単発型 (たんぱつがた) | 症状は続いても半年以内で完全に回復し、治療が必要なくなり、再発することはない。 |
原因
好酸球性胃腸炎がはじまる根本原因はわかっていません。 ただ、炎症を悪化させるものとして、患者さんによっては、ある種の食物、花粉、アレルギー性鼻炎などがわかっています。
発症リスクを高める因子:両親に、アレルギー疾患(気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなど)が多いと言われています。
遺伝子の影響:まだ、論文発表が行われていません。
好酸球性胃腸炎は、主に非IgE依存型反応(非即時型反応)により炎症が起きると考えられています。よく知られているIgE依存型反応(即時型反応)は、原因と予想される食物に対する特異的IgE抗体を検査すると、陽性か否か判定できます。さらに食物負荷試験を行って、確定診断を行います。好酸球性胃腸炎の診断上、食物特異的IgE抗体はあまり役にたちません。原因となる食物がはっきりした患者さんでも、その食物に対する特異的IgE抗体が陽性のこともあれば陰性のこともあります。好酸球性胃腸炎は、IgE抗体ではなく、細胞性免疫、しかも寄生虫を本来攻撃するための2型免疫が原因の中心だと考えられています。2型免疫をつかさどるリンパ球などが、寄生虫の攻撃を受けたと勘違いして、好酸球(寄生虫をやっつける免疫細胞)を呼び寄せ、炎症を起こすのだと考えられています。
食物に対する反応はその時間経過と症状から大きく2つに分かれる。
IgE依存型反応(青色で示す)
広く知られている食物アレルギーは、IgE依存型反応により起きる。全身に遍在する食物特異的IgE抗体とマスト細胞によってじんましんや呼吸困難などの症状を起こす。多くは数分から2時間以内に発動する。
非IgE依存型反応(赤色で示す)
一方、非IgE依存型反応は短ければ1時間、場合によっては2週間以上経って発動する。炎症を起こす臓器は抗原認識細胞が存在する部位(本症であれば消化管)に限定されている。
診断
好酸球性胃腸炎の診断は以下のように行います。
- はき気、嘔吐、食欲不振、腹部膨満、下痢、血便などの症状、1つ以上が1か月以上続いている。(持続期間が1か月以内であっても、診断される場合があります)
- 鑑別疾患を除外する
過敏性腸症候群(機能性胃腸障害);クローン病;潰瘍性大腸炎;アレルギー性肉芽腫性血管炎;シェーンラインヘノッホ紫斑病;感染性腸炎;寄生虫感染;好酸球性白血病;好酸球増多症候群;放射線性腸炎;虚血性腸炎;悪性リンパ腫;非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)腸炎、など - 消化管内視鏡検査で、組織を一部採取し、好酸球が集まっていることを証明します。好酸球が、顕微鏡の400倍で見て、一視野に20個以上あった場合、本症と診断します。ただし、盲腸、上行結腸という部分には、健康な方でも20個以上好酸球が見られることが多いため、慎重に診断をします。
治療
標準治療は、経口ステロイドです。最初は多めの量で炎症を抑えておいて、徐々に減量し、なるべく少ない量で症状が出ないようにします。 長期的に内服すると、量によっては全身性の副作用が出現するため、なるべく少ない量が良いのですが、少なすぎると症状が出るため、気を付けなければなりません。一部の患者さんは、プロトンポンプ阻害薬、抗ロイコトリエン薬などが効果を示すことがあります。これらは副作用がほとんどありません。 その他、食物や花粉など炎症を起こす原因が見つかる患者さんもいらっしゃいます。この方たちは、原因物質をなくすことで、薬が必要なくなる場合もあります。
様々な治療薬が開発中であり、よりよい治療が出てくることを期待しています。
<出典:国立成育医療研究センター 好酸球性消化管疾患 患者さん用情報WEBサイトより(2024年6月現在)>
リンク:好酸球性消化管疾患 患者さん用情報WEBサイト | 国立成育医療研究センター (ncchd.go.jp)
リンク:好酸球性消化管疾患ガイドライン