アルコール性肝障害とは、長期(通常は5年以上)にわたる過剰の飲酒が肝障害の主な原因と考えられる病態で、以下の条件を満たすものを指します。

【出典】日本アルコール医学生物学研究会(JASBRA)診断基準(2011年)(参考資料)

  1. 過剰の飲酒とは、1日に純エタノールに換算して60g以上の飲酒(常習飲酒家)をいう(表1)(ただし女性や遺伝的にお酒に弱いひとでは、1日40g程度の飲酒でもアルコール性肝障害を起こしうると言われている。)。
  2. 禁酒により 血清AST、ALTおよびγ−GTP値が明らかに改善する。
  3. B型肝炎やC型肝炎などの肝炎ウイルスマーカーや抗ミトコンドリア抗体、抗核抗体などの自己免疫性の肝臓病を疑う検査値がいずれも陰性である。

表1 各種アルコールの換算表

種類アルコール度数アルコール換算量
ビール(中瓶1本)500ml5%20g
日本酒一合 180ml15%22g
焼酎一合 180ml35%50g
ワイン(1杯)120ml12%12g
ウイスキーダブル 60ml43%20g
ブランデーダブル 60ml43%20g

診断

アルコール性肝障害の診断には、(1)肝機能異常の評価、(2)飲酒歴の確認、(3)アルコール以外の原因による肝障害の除外が必要です。

(1)飲酒歴の聴取とアルコール依存症の診断

飲酒歴の聴取は極めて重要です。本人の申告では飲酒量を少なく申告する傾向があり、客観的な評価のためには、第三者(家族、友人、職場の同僚など)からの聴取も必要となります。

アルコールには身体的、精神的依存性があり、アルコール依存症は精神神経疾患の範疇に分類されます。アルコール関連問題のスクリーニングテストとしてAUDIT-Cが用いられます。過去1年間の飲酒状況に関して3項目の質問に答える形式となっており、男性5点以上、女性4点以上の場合はアルコール依存症の疑いとなります7)。アルコール依存症の診断のために、CAGE法、ICD-10、KAST法などが用いられています。依存症の診断、治療においては、精神神経科医師との連携が必要です。

(2) アルコール性肝障害の診断基準

アルコール性肝障害の診断基準は、これまで、いくつかの基準が用いられてきましたが、現在は2011年アルコール医学生物学研究会(JASBRA)から提示された「JASBRAアルコール性肝障害診断基準(2011年版)」(参考資料)が用いられています。

(3) 身体所見

アルコール性肝障害に特異的な自覚症状や身体所見はありません。他の肝疾患と同様に、肝機能異常が軽い時期には、お腹が張る、疲れやすい、食欲がないなどの自覚症状がみられることがあります。 

重症アルコール性肝炎では、飲酒を止めたにも関わらず肝臓の腫れが続き、腎不全、消化管出血、肝性脳症など重篤な合併症を合併することがあります。 

肝障害が進展して肝硬変になると、全身倦怠感、クモ状血管腫、女性化乳房、手掌紅斑、皮膚掻痒感、黄疸、腹水、浮腫、肝性脳症などが認められます。

(4) 血液検査

アルコール性脂肪肝では、AST/ALT比の上昇を伴う軽度のAST・ALTの上昇、γ−GTP上昇、高脂血症、コリンエステラーゼ上昇などを認めます。 

アルコール性肝障害では、ミトコンドリア分画AST上昇が特徴的です。またIgA上昇、大球性貧血などを認めることがあります。他の要因による肝障害よりも、PIVKA-IIの陽性率が高いとされます。血清糖鎖欠損トランスフェリン(CDT)は、2ヶ月以上純アルコール換算60グラムを超える飲酒を継続すると上昇し、欧米では習慣飲酒のマーカーとして使用されています。%CDT(CDT/トランスフェリン)はアルコール性肝障害の補助診断として有用性が期待されています(日本では保険適用外)。 

アルコール性肝炎では、AST/ALT比の上昇、AST・ALT・γ−GTPの著明な上昇、コリンエステラーゼ低下、線維化マーカーの上昇、高脂血症、白血球増加(多核好中球増加)、ビリルビン値上昇、低アルブミン血症、PT値低下、高乳酸血症などを認めます。 

肝硬変では、汎血球減少症、PT値低下、低アルブミン血症、ビリルビン上昇、高アンモニア血症などを認めます。

治療

アルコール性肝障害の治療の基本は断酒に尽きます。 

断酒を補助する目的で抗酒剤が用いられることがあります。現在使用可能なものは、いずれもALDH阻害剤のジスルフィラム(商品名:ノックビン)とシアナミド(商品名:シアナマイド)です。両薬剤ともアセトアルデヒドの肝臓での分解を抑制し、吐き気などの不快な症状を起こすことでアルコール類の摂取を避けさせるために使用されます。 

アルコール依存症の治療には精神神経科的・社会的アプローチが必要となります。断酒会への参加や、自治体による節酒や断酒に関する啓発活動など、常習飲酒家に対して寛容になり過ぎない社会を構築していくことが重要です。 
断酒している人が服用すると断酒率があがる薬として、アカンプロサート(商品名:レグテクト)があります。主に脳内のNMDA受容体を介する神経伝達を阻害することで、飲酒への欲求を抑える効果があるとされています。

2018年には飲酒量低減(ハームリダクション)という治療選択肢を加えた「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン」7)が公開されました。飲酒量低減の目安として、男性では1日平均40g以下、女性では平均20g以下の飲酒が目安とされました。飲酒量低減を目的とした薬剤としてはナルメフェン(商品名:セリンクロ)が推奨されています。しかしナルメフェンの販売開始当初は、処方出来るのは精神科を中心とした「適切な研修を受けた医師」という条件が課されており、多くの肝臓専門医はナルメフェンを処方できない状況でした。肝臓学会はアルコール関連専門学会と連動して、2021年11月から「アルコール依存症の診断と治療に関するeラーニング研修」の配信を開始し、同研修を受講した肝臓専門医等もナルメフェンの処方が可能となるようにしました。2022年5月からは、eラーニング研修はメディカルスタッフも受講可能としています。

(出典:肝炎情報センター2024年6月)

     

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