自己免疫性肝疾患は、細菌やウィルスなどの異物に対する生体の防御機構である「免疫」の異常で、自分自身の肝臓を攻撃することによって発症します。おもに以下の3つに疾患があり、その頻度は低く難治性であることから、厚生労働省が指定する指定難病になっています。
 診断書を提出することで重症度による医療費補助が受けられる場合があります。

1)自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis:AIH)

症状

通常は自覚症状がなく、健診などで偶然発見されることが多いです。 全身倦怠感 、疲労感、食欲不振などの症状を訴える方もおられます。急性肝炎として発症する場合は、倦怠感、 黄疸 、食欲不振などの症状がみられますが、自己免疫性肝炎に特徴的な症状はありません。

診断

肝細胞が自分の免疫で障害され、ウィルス性肝臓病と同様にASTやALTが上昇します。免疫異常の特徴として抗核抗体が陽性となり、IgGが高値になります。中年以降の女性に好発することが特徴です。原因がはっきりしている肝炎ウイルス、アルコール、薬物による肝障害、および他の自己免疫疾患による肝障害を除外するために診断には肝生検が必要です。

治療

治療は副腎皮質ステロイドが有効で、ほとんどの症例で病気の進展を抑えることができます。しかし薬を中止すると肝機能が正常化した後でも再発することが多い病気です。また適切な治療を行わないと、重症の肝炎を起こして短期間で重症化する場合があります。

副腎皮質ステロイド治療が長期間におよぶため、副作用に注意が必要です。頻度の高いものには、骨粗鬆(しょう) 症や肥満、高血圧、糖尿病(耐糖能障害)、脂質異常症などがあります。他にも、続発性副腎皮質機能不全、胃や十二指腸の消化性潰瘍、膵炎、精神 変調、不眠、緑内障、白内障、血栓症、多毛、ざ瘡(にきび)、体幹部の肥満、満月のように顔が丸くなる(満月様顔貌)などがあります。 また、感染症の発病および増悪(特にプレドニゾロン20㎎/日以上投与時)や大腿骨骨頭壊死などの無菌性骨壊死に注意が必要です。副腎皮質ステロイドを長期間服用していますと自分の副腎が小さくなり働かなくなりますので、急に治療を中止しますと、体内の副腎皮質ステロイドが不足して、倦怠感、吐き気、頭痛や血圧低下(ショック)などの症状が出現します(離脱症候群)。副腎皮質ステロイドを患者さんが勝手に止められることや飲み忘れをしないように厳重に注意しなくてはなりません。 美容的なことがいくら気になっても勝手に止めては危険です。

経過

発症はとてもゆっくりであり、自覚症状も軽い場合が多いため、通常ご自分で発症に気がつくことはなく、健康診断などで偶然に発見されることがしばしばあります。しかし、治療を行わないとその進行は早く、肝硬変から肝不全に至ることも稀ではありません。適切な治療をされた患者さんのほとんどでは、肝臓の 炎症 が速やかに改善し、進行もみられなくなります。日本での調査では、適切な治療を受け、肝機能検査値が安定している患者さんの長期予後は良好で、死亡率は一般人口の死亡率と差のないことが示されています。ただ、頻回に肝機能検査値が悪化する患者さんの中には予後不良な方も存在します。

詳細は「患者さんとご家族のための自己免疫性肝炎ガイドブック」をご覧ください リンク:AIHガイドライン2021

2)原発性胆汁性胆管炎(primari biliary cholangitis:PBC)

肝細胞で作られた胆汁を流す胆管のうち、肝細胞内の微細な細胞が自己免疫で障害される病気です。肝臓の中の細い胆管が壊れるため、胆汁の流れが悪くなり、進行すると黄疸が出現します。

診断

 胆管障害の指標であるALPとγ-GTPが上昇し、免疫異常の特徴として抗ミトコンドリア抗体が陽性となり、IgMが高値になります。AIHとPBCの合併も時にみられ、診断には肝生検による肝組織検査が必要になります。

症状

 以前は肝硬変に至って診断される患者さんが多かったのですが、現在PBCと診断される方の多くは病気が進行しておらず、肝硬変へ至っていません。この段階であれば肝臓の中の胆汁の流れは多少滞ってはいるもののまだ十分に保たれており、肝臓の働きも正常ですので、自覚症状はほとんどありません。ただ、このような軽い段階の方でも、およそ30%程度の患者さんに皮膚のかゆみがあることが分かっています。病気が進行し肝硬変になると、浮腫・腹水・食道胃静脈瘤の破裂による吐血や下血・肝性脳症などが現れます。最近では、検診時肝機能検査値(ALP, γ-GTP)の異常をきっかけとしてみつかる、全く症状のないPBC(無症候性PBC)が増えており、新しくPBCと診断される人の2/3以上を占めています

一方、自己免疫を起こしやすい体質の方では他の自己免疫疾患がしばしば合併することが知られています。PBCの約15%の方に口や眼が乾燥するシェ-グレン症候群、約5%に関節リウマチ、慢性甲状腺炎が合併するとされており、これら他の自己免疫疾患の症状が目立つ場合もあります。

治療

治療としてはウルソデオキシコール酸(UDCA)が用いられます。PBウルソデオキシコール酸だけで十分に肝機能障害が改善しない場合、わが国ではPBCに対する使用は正式には認められてはいませんが、高中性脂肪血症の治療薬であるベザフィブラートという薬がしばしば使われます。PBCが進行して肝硬変に至った場合は、他の原因による肝硬変と同じ治療を行います。内科的治療でコントロールされない場合には肝移植を検討します。

予後

ほとんど症状のない 無症候性 PBCの患者さんでは、ウルソデオキシコール酸を飲み続けることによって、病気のない方と同じく日常生活を送り天寿を全うすることができるようになっています。ウルソデオキシコール酸が効果不十分の場合でも、上記のようにベザフィブラートを併用することによって、病気が進行してしまうことはかなり少なくなっています。

リンク:PBCガイドライン2023

3)原発性硬化性胆管炎(primary biliary cholangitis:PBC)

PBCと違い比較的太い胆管の細胞が自己免疫で障害される病気です。日本では、発症年齢は20歳代と60歳代に2つのピークがみられます。若年の患者さんでは潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を合併しやすいとされています。高齢の患者さんでは膵炎の合併がみられることがあります。

症状

黄疸やかゆみが主な症状ですが、無症状で肝機能検査異常により見つかる場合もあります。
若年の患者さんでは潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を合併しやすいとされています。高齢の患者さんでは膵炎の合併がみられることがあります。

診断

 PBCと同様にALP, γ-GTPが上昇しますが、特徴的な免疫異常の所見は通常みられません。内視鏡やMRIによる胆管膵管画像検査などによる胆管狭窄と拡張などの所見を確認することにより診断します。

治療

 現在のところ、原発性硬化性胆管炎に対する根本的な治療は存在せず、薬物による治療法には確立されたものがないのが現状です。細菌感染による胆管炎を併発した際には抗菌薬などで治療します。また細くなった胆管を内視鏡的に拡張することもあります。PBCと同様に肝硬変へと進展すると、それぞれの症状に合わせた肝硬変に対する治療が必要になります。さらに肝不全へ進行した場合には、肝移植が唯一の治療法になりますが、肝移植後に原病の再発は他の肝疾患より多いとされており、臨床的にしばしば問題となります。

 リンク:PSCガイドライン

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