乳腺外科からのお知らせ
乳腺疾患の症状
乳腺の疾患にはいろいろな種類がありますが、その中で治療が必要なもののほとんどは乳がんです。
乳がんに限らず多くのがんに共通したことですが、完治の可能性を高めるためには症状が出る前に発見することが大切です。乳がんについては40歳以上の女性を対象として全国の市町村で検診事業が行われていますので、2年に1度のマンモグラフィー検診をぜひ受けてください。当院でも乳がん検診を行っておりますのでお問い合わせください。
乳房のしこり
乳房の表面から触るかたまりです。
乳腺は比較的弾力的で硬い組織なので、指でつまむとしこりに感じることがあります。乳房を触る際にはつままずに指の腹で軽く押したり、表面を撫でるようにしてください。特にゴツゴツとして石のように硬いしこりは要注意です。
乳房の痛み
乳房は何もなくても痛みを感じる部位です。多くは生理周期に一致して起こるもので、無害なものがほとんどで、乳腺症の症状です。生理周期と一致していなくても、ストレスなどによるホルモンバランスの乱れでも起こることがあります。早期の乳がんは痛みが出ることはありませんが、たまたまその部位に乳がんが存在することがあります。その痛みは神様のお告げかも知れませんので、いちど検査を受けてください。
乳頭分泌
乳頭先端の乳汁が出る穴から出てくる液のことで、透明なもの、黄色っぽい色のもの、母乳のような白いもの、血液様のもの、黒っぽいどろどろしたものなど様々です。特に赤い血液のようなものや、黒いどろっとしたものは要注意です。
乳頭のびらん
乳頭部に擦り傷のような皮膚荒れが見られます。パジェット病という特殊な乳がんの症状であることがありますので診察を受けるようにしてください。
乳房の左右非対称
左右の乳房は厳密な対称ではありませんが、明らかに左右の形や大きさが違う場合には注意が必要です。
上記のような症状がある場合には乳腺外科を受診してください。原則として受診当日にマンモグラフィーと超音波検査を行い、必要あれば針生検などの組織検査まで行います。
乳房の症状などで気がかりな事がある方は是非ご相談ください。
すでに他院で診療を受けておられる方のセカンドオピニオンもお受け致します。
日本人の乳がん
日本人女性が罹患するがんの中で最も多いものが乳がんです。1980年頃には年間およそ1万5千人の乳がんが発生していましたが、その後急速に増加し、2000年には年間4万人、2010年には6万8千人、現在は年間約10万人が新たに乳がんに罹患しています。女性10人に一人が一生のうち乳がんにかかるという計算になります。
日本人を含むアジアの女性の乳がんの特徴は30代から徐々に患者が発生し、40代で急激に増加、ちょうど閉経期にあたる50歳前後で発生のピークを迎えます。その後緩やかに減少していきます。40〜50歳の女性というと子育ての最後の仕上げの時期であったり、お仕事のキャリアで最も必要とされる時期に重なるために、本人だけではなく、家庭的あるいは社会的な損失が極めて大きな病気といえます。
しかし乳がんは体の表面にできるものなので他のがんに比べて発見がしやすく、大部分の乳がんはがんの中では比較的進行が緩やかな部類に入るため、定期的な検診で早期に発見すれば完治できる可能性が大きいものです。
乳がん検診
検診について
がん検診は大きく分けて二つの種類があります。一つは市町村などが行う対策型検診、もう一つは人間ドックなど個人で受ける任意型がん検診です。何が違うかというと、その目的が違います。市町村が行う対策型検診の目的は対象住民の乳がんによる死亡率を下げることにありますので、死亡率が下がることが証明されている検査だけを行い、コストパフォーマンスも要求されます。乳がんの場合は40歳以上で2年に一度のマンモグラフィーがそれにあたります。
一方で任意型検診は個人が自分自身を守るために受けますので、個々人のレベルでの早期発見を目指します。発見率を上げるためにマンモグラフィーに加え超音波検査や乳房造影MRI検査、場合によってはPET検査なども行われる場合があります。
マンモグラフィーと超音波(エコー)検査の長所、短所
乳がん診療に携わっていると良く質問されるのが、マンモグラフィーと超音波検査のどちらが良いかということです。結論からいうと、この二つの検査は長所と短所が全く逆になっている検査ということになります。
マンモグラフィーの長所は、ごく早期の乳がん(非浸潤がん)で良く見られる微小石灰化が見つけやすいということです。また、乳房全体を1枚の写真として見ることができ、あとから再度見直したり、見逃しがないか別の医師によるチェックを行うことが可能です。短所としては若い人に多いのですが、乳腺がしっかりとしていると乳腺が濃い白色に写るため(高濃度乳腺といいます)、同じく白く写るしこりが見えにくく見落としが増えることです。40代では30%くらいの見落としが出るとの報告もあります。また乳房をきつく圧迫するので痛みを伴い、放射線の被曝も少ないですがあります。
一方で超音波検査はしこりを見逃すことは少なく検査時の痛みや放射線の被曝はありません。その代わり極早期の微小石灰化を見つけることは困難です。また、検査をする人だけが画像を見ながら気になるところを記録していくので、もし見落としていた場合に後から改めて検査所見をチェックし直すことができません。つまり検査を行う人の技量が重要になります。
40歳代の日本人女性7万3千人を対象として検診でマンモグラフィーだけ行う場合と、マンモグラフィーと超音波を行う場合を比較したJ-START試験の結果ではマンモグラフィーのみでの発見者117人、超音波も同時に行った場合184人と超音波検査を併用したほうが乳がんの発見率は高いという結果も出ています。
なお、40歳未満の女性の検診は高濃度乳腺が多いため、マンモグラフィーではなく超音波検査のみを行うことも多いです。
自己検診
乳がんは体の表面にできるものなので、自分で触ることも多いものです。経験上1cmに満たない小さな乳がんを自分で見つけてくる方は結構いらっしゃいます。まだ閉経していない場合には生理周期で乳房の硬さが変わりますので、生理が始まった日から10日目の最も乳腺が柔らかくなる時期に触ることが重要です。乳腺は消しゴムくらいの硬さがあり、指でつまむようにするとしこりのように感じますので、つまむのではなく指の腹で胸板に向かって押さえるように触ります。がんのしこりはかなり硬いですのでコリッとした感触があります。もちろんしこりを見つけることは大事ですが、いままでと違う感じというのが最も大事です。いつも自分で触っていると今までこんなのはなかったというのがわかると思います。
乳がんの診断
何らかの乳房の症状を訴えて受診した時にはまず触診、マンモグラフィー、超音波検査を行うことになります。これらの検査で乳がんを疑う所見があった場合には超音波を使用してしこりに針を刺してしこりの組織の一部を採取し(エコーガイド下針生検)病理診断を行います。石灰化のみの病変など超音波では見えない場合にはマンモグラフィーを使って生検を行う場合もあります(ステレオガイド下マンモトーム生検)。
病理検査で乳がんと診断された場合には骨、肺、肝臓などに転移していないか調べるCT検査、骨シンチグラフィーなどを行います。また、切除する範囲を決めるために乳房の中でのがんの広がりを確認するための造影MRI検査も行うことがあります。それと並行して生検で採取した組織を用いて、その乳がんの性質を調べるための免疫組織染色(ホルモン受容体、ハーツーなど)による病理検査を追加します。
これらの結果で乳がんの病期(ステージ)と適切な治療法が決まります。
乳がんの治療
骨、肺、肝臓などに転移がなく、がんが乳房と腋のリンパ節までに止まっている場合には完治を目指した治療を計画します。手術、放射線治療、薬物治療を組み合わせて治療を行いますが、この3つの治療の組み合わせや順序はしこりの大きさやリンパ節転移の有無から決まるがんの病期と最初に針で採取した組織の免疫組織染色の結果で決まります。
乳がんが乳房の皮膚に出ている場合やリンパ節への転移が非常に多い場合、鎖骨上下、胸骨の裏側にある内胸リンパ節に及んでいる場合(局所進行乳癌)にはステージ3になりますので、まずは薬による治療を開始して効果があれば手術を行うようにします。
骨、肺、肝臓など乳房外にがんが転移を来しているステージ4の場合には残念ながら完治は目指すのが困難な状態ですので、薬による治療や対症療法的な放射線治療を副作用ができるだけ少なくなるように注意しながら行っていきます。
手術
乳がんの手術は乳房と腋のリンパ節に対して行います。
乳房の手術は乳房をすべて切り取る乳房切除術(全摘手術)と乳腺部分切除術(温存手術)の二通りがあります。
温存手術では、がんのしこりから少し余裕をとって乳腺の一部を切除します。しこりが大きい場合やしこりの周囲のがんの広がりが大きい場合には切り取る範囲が大きくなり、良い形を維持できないことがあります。また原則として手術後に週5回で計16〜25回の放射線治療を行いますので、膠原病などのため放射線治療ができない方や毎日の放射線治療が困難な方は温存手術ができない場合があります。
全摘手術では乳輪乳頭を含めて乳腺を全て切り取りますので、胸のふくらみが無くなります。全摘を行った場合にも腋のリンパ節への転移がある場合には胸と鎖骨上に放射線治療を行います。
手術方法の選択の際に全摘手術と温存手術のどちらが良いのかという質問を受けることがあります。全摘した方が良く治るのではないかと思われるようです。確かに温存手術を行った場合には2〜5%程度の割合で切り口の部分に残ったがん細胞が増殖して出てくることがあります。手術後2-3年で出てくることが多いのですが、この場合には改めて乳房の全摘を行う必要があります。また、乳腺組織が残っているので、再発ではなく新たな乳がんが発生することもあります。しかし、これまでの多くのデータからは、温存手術後に放射線治療を行った場合には全摘手術と生存率は全く変わりません。したがって、放射線治療が可能で綺麗な形で乳房が残せるのであれば温存手術をお勧めすることが多いです。もちろん本人の希望があるということが大前提です。
腋のリンパ節の手術
手術前の検査で明らかに腋のリンパ節転移がある場合にはリンパ節の切除を行います。転移があるかどうか微妙な場合には超音波で見ながらリンパ節を針で刺して細胞を取って調べることもあります。リンパ節の切除を行うと、腕のむくみが生じたり、腕が上がりにくくなったり、上腕の感覚が鈍くなったりする後遺症が残ることがあります。生活する上で不便なことになりますので、多くが完治して長生きする病気であるだけに可能であれば避けたい後遺症です。手術前の検査でリンパ節への転移がなさそうな場合にはセンチネルリンパ節生検という方法で手術の際にリンパ節のサンプルのみを採取して転移があるかないかを調べます。リンパ節を全て切除するわけではないので、前述の後遺症はほとんど起こりません。放射性同位元素や色素を使用して乳房にあるがん細胞が腋のリンパ節に流れていく道筋をたどり、最初に流れ着くリンパ節を探して採取します。
もしリンパ節転移が見つかった場合には、転移の大きさや転移のあるリンパ節の個数に応じて手術後の放射線治療の範囲を広げたりや薬の治療を強めにしたりして対応します。まれに転移の規模が予想外に大きい場合には後日腋のリンパ節切除手術を追加することがあります。
放射線治療
乳房温存手術を行った場合には手術して残った乳房に週5回(月〜金曜日)5週間、計25回の放射線治療を行います。最近では1回の放射線量を多くして週5回で16回(3週間と1日)の短期で行う方法も行われるようになってきました。また手術で切り取ったがんの病理検査で、切り口のごく近くにがん細胞が見られる場合(断端陽性)には、4〜5回の放射線治療を追加して万全を期します。腋のリンパ節転移がある場合には手術した側の鎖骨上まで放射線を当てる範囲を広げます。
全摘手術を行った場合には腋のリンパ節に転移があれば手術した側の胸壁と鎖骨上に週5回(月〜金曜日)5週間、計25回の放射線治療を行います。
放射線治療は転移、再発の治療にも使用することがあり、主に痛みなどの症状がある場合や骨折や神経の圧迫をきたしそうな部分に対して使用します。脳転移に対しては転移腫瘍の大きさや数にもよりますが、ガンマナイフなど腫瘍部分のみいろいろな角度で放射線を当てる定位放射線照射や、脳全体に放射線を当てる全脳照射が行われます。
当院には放射線治療の設備がありませんので、通院の便に合わせて近畿大学奈良病院、奈良県総合医療センター、大和高田市立病院、八尾市立病院などの施設で放射線治療を依頼しています。
薬物療法
手術前後の薬物療法(周術期薬物療法)
乳がんは発見された時点で全身にがん細胞が広がっていると言われています。CTなどの検査で転移がないとされても、検査では見えない細胞のレベルでは全身に転移を起こしている可能性があるということです。
手術前後に行う薬の治療の目的は、このような検査でとらえられない全身にひろがったがん細胞を根絶して完治を勝ち取ることにあります。そのために採取したがんの組織の性格を調べ、それに合わせた治療を行っていきます。
がんのタイプ | 検査結果 | 治療法 |
---|---|---|
ルミナルA | ホルモン陽性、ハーツー陰性、Ki-67低値 | ホルモン療法のみ リンパ節転移が多い場合は化学療法や 分子標的治療の追加を考慮 |
ルミナルB (ハーツー陰性) | ホルモン陽性、ハーツー陰性、Ki-67高値 | 化学療法+ホルモン療法 リンパ節転移が多い場合は分子標的療法の追加を考慮 |
ルミナルハーツー | ホルモン陽性、ハーツー陽性 | 化学療法+抗ハーツー分子標的療法+ホルモン療法 |
ハーツーエンリッチ | ホルモン陰性、ハーツー陰性 | 化学療法+抗ハーツー分子標的療法 |
トリプルネガティブ | ホルモン陰性、ハーツー陰性 | 化学療法 術前化学療法の場合は免疫チェックポイント阻害剤の併用を考慮 |
ホルモン療法
ホルモン受容体陽性の乳がんは女性ホルモンによって成長するので、女性ホルモンの作用を押さえることで治療を行います。 5年から10年間の投与を行いますが、がんの悪性度や進行度によって変わります。
女性ホルモンを減らす方向に作用しますので、ほてり(ホットフラッシュ)や発汗が増えるなどの更年期障害に似た症状が起こりますが通常は軽微です。また、閉経後の方に良く使用されるホルモン療法剤のアロマターゼ阻害剤(アナストロゾール、レトロゾール、エキゼメスタン)は骨が弱くなったり関節の痛みがでることがあり、骨粗鬆症のチェックや場合によっては治療を行いながら使用することがあります。また、閉経前後を問わず使用するタモキシフェンは子宮体癌のリスクを少し増やしますので、定期的な婦人科での検査が勧められます。
術後ホルモン療法を行う患者さんのうち、リンパ節転移が4個以上あったり、リンパ節転移が1〜3個でも腫瘍が5cmを越す大きさであったり、悪性度が高い(グレード3)場合にはアベマシクリブ(商品名ベージニオ)という分子標的薬(CDK4/6阻害剤)を併用します。アベマシクリブはがん細胞の細胞分裂を止めて増殖しないようにする薬剤です。下痢、倦怠感、脱毛、白血球減少、吐き気などの副作用があるため、副作用の対策をきちんとして使用する必要があります。
また、最近では採取したがん組織の遺伝子を調べて点数を付け、再発のリスクや抗がん剤治療を行う必要性を知ることができるオンコタイプDXという検査が保険で使えるようになりました。この点数が高いほど抗がん剤の再発防止効果が高くなり、逆に点数が低い場合には抗がん剤治療を行う必要性が少ないと判断することができますので、不要な抗癌剤治療を避けることができます。
化学療法
いわゆる抗癌剤による治療です。ホルモン受容体陰性の場合にはほぼ必須となる治療で、ホルモン受容体陽性でも悪性度や進行度の高い場合に行うことがあります。手術前後の抗癌剤治療は決まった投与量を決まった期間内に行うことが大変重要になります。アンスラサイクリン系、タキサン系、プラチナ系と呼ばれる抗癌剤を使用して12週間から24週間のスケジュールで行います。ハーツー陽性の乳がんの場合にはトラスツズマブ(ハーセプチン)やペルツズマブ(パージェタ)といった抗ハーツー分子標的治療を併用します。
以前は手術が終わった後に抗がん剤治療を行っていましたが、最近では、特にホルモン受容体陰性のトリプルネガティブタイプやハーツー陽性の場合には手術する前に抗癌剤治療を行うのが主流になっています。最近ではトリプルネガティブタイプの術前化学療法ではペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)という免疫チェックポイント阻害剤を併用することで65%の患者で腫瘍が消失する効果が期待できます。
抗がん剤治療を手術前に行うことで実際にその個人にその抗がん剤が効果があるのかがわかります。このような方は再発率が非常に少なくなりますし、がんが消えなかった場合には手術後の治療を強めに行うことで再発率を減らすことが可能です。
進行再発乳がんの薬物療法
手術後の再発や骨、肺、肝臓など乳房外に転移を起こした乳がんは、残念ながら完治させることは極めて難しくなります。このような場合の治療の目標は病気を治すことではなく、できるだけつらい症状が少ない状態で日常生活が送れる期間を長くすることにあります。そのためには強い治療で頑張ってがんを小さくすることを狙うのではなく、最小限の治療でそれ以上大きくしないことが大事です。
この場合でもやはりホルモンやハーツーによるがんの性格をふまえた治療を行います。進行再発乳がんでは薬剤が一旦効果を示しても、ある程度の期間使用しているとがん細胞がその薬に抵抗性となり効果がなくなります。その時点で別の薬剤に切り替えて治療をつないでいくことになります。
乳がんは手術可能な時期に発見して適切に治療を行うことで完治できる可能性が非常に高い疾患です。また、体の表面近くにできるものなので内臓のがんに比べて容易に発見することができます。
自己検診と定期的な検査を受けて、もしかかってしまっても早期発見できるようにしてください。そして異常を感じたり、検診で精密検査を指示された場合には当院の乳腺外科にご相談ください。
乳腺の良性疾患
がん以外にも良性の腫瘍や病変がみられることがあります。
良性疾患の症状の多くは乳房のしこりと痛みです。乳管内乳頭腫の場合は乳頭分泌を伴うことがあります。
診断の目的は、乳がんでないことを確認することになります。乳がんの診断と同様にマンモグラフィーや超音波検査を行いますが、ほとんどはこれらの検査で区別が可能です。超音波検査などで乳がんを完全に否定できない場合や葉状腫瘍が疑われる場合には針生検などを行うことがあります。
乳腺症
乳腺症とは生理周期による女性ホルモンの変動で起こる乳腺の変化が積み重なって起こる経年変化を総称したものです。
生理前に乳房の張りや痛みが生じ、しこりのようなものが触れたりしますが、生理が終わって数日すると症状が消えたり軽くなったりします。
検査所見としては、超音波検査で乳腺内に嚢胞(中に液体が貯まった袋状のもの)や腺症、線維腺腫症などのしこりがあり、乳腺の色調が部分的に暗く見えたりします。マンモグラフィーでは石灰化を伴うことがあり、早期の乳がんとの区別が必要なことがあります。
線維腺腫
乳腺に発生する良性のしこりで最も多いものです。弾力性があり良く動くしこりとして触れることが多く、多発していることもあります。あまり大きくなることはありませんが、思春期にできるものはかなり大きくなることがあります。2〜3cmより小さなものは治療の必要はありませんが、しこりが気になる場合や、大きくなる傾向があって葉状腫瘍との区別が必要な場合には腫瘍の摘出を行う場合があります。
葉状腫瘍
葉状腫瘍は比較的まれな腫瘍ですが、マンモグラフィーや超音波検査で線維腺腫と区別が難しく、細胞診や針生検でも区別がつかないこともあります。線維腺腫は30歳を越すとあまり大きくなりませんが、葉状腫瘍は年齢に関係なく大きくなり巨大な腫瘤になることがあります。また、非常に稀ですが悪性葉状腫瘍に変化することがあり、肺や骨に転移して生命を脅かすことがあります。線維腺腫との区別が難しい場合には6ヵ月程度の間隔で超音波検査を行って、大きくならないかをチェックします。大きくなる傾向がある場合には腫瘍を摘出することがあります。
乳管内乳頭腫
乳管内乳頭腫は主に乳頭から近い部位にできることが多く、乳管内に腫瘍が存在するため腫瘍表面からの出血が、血性乳頭分泌として乳首の先から血液や黒く固まった血塊が出てくることもあります。針生検などでは早期の乳がんと区別が難しい場合もあり、乳管内乳頭腫に早期乳がんが混ざっていることもありますので、大きくなる傾向があったり、ある程度の大きさがある場合には、乳がんとの区別を行うために腫瘍を摘出することがあります。
過誤腫
過誤腫は乳腺の良性腫瘍としては稀なものです。乳腺を構成する成分である乳腺組織、脂肪組織、繊維組織などがさまざまな割合で異常に増殖してしこりを作ったものです。
針生検などで組織を採取しても正常な乳腺組織が出てきます。原則的には治療は不要ですが、乳房の形状が変わるような大きなものは切除手術を行う場合があります。
乳頭部腺腫、乳管腺腫
非常に稀な良性腫瘍ですが、乳がんの可能性を否定するのと治療を兼ねて切除を行います。
その他の良性の腫瘍は原則として経過観察を行いますが、サイズが大きい場合には切除手術の対象になることがあります。
乳腺の炎症性疾患
乳腺の炎症は乳腺炎とよばれ、急性乳腺炎と慢性乳腺炎に大別されます。
急性乳腺炎
急性乳腺炎はほとんどが授乳期に起こり、乳管の閉塞から乳汁がうっ滞することが原因ですので乳房マッサージや授乳後の残乳の搾乳などが重要です。
一旦乳腺炎になってしまうと、乳房が膿を持つため、乳房が赤く腫れて激しい痛みが生じます。この場合には局所麻酔下に膿が貯まった部分を切開して排膿し、ドレーンと呼ばれるチューブを乳房の中に入れて持続的に膿を排出させ、生理食塩水で頻回に洗浄を行いますので毎日のように通院が必要になります。
慢性乳腺炎
慢性乳腺炎は授乳と関係なく起こり、主に乳輪部直下に膿が貯まります。乳輪付近が赤く腫れて痛みが出現し、そのまま置いておくと皮膚に穴があいて膿が排出されます。陥没乳頭で起こりやすい傾向があり、最近では脂肪を好むコリネバクテリウムという細菌が原因の一つとされています。治療はまず局所麻酔下に切開をおこなって膿を出すか、またはステロイド剤の内服を行い、炎症が治まった時点で膿瘍の部分を切除する手術を行います。コリネバクテリウムに効果のある好性物資を投与することもあります。ただし、手術まで行っても再発することが多く、完治させるのが困難な場合もしばしばあります。
当科では急性、慢性を問わず乳腺炎の治療も可能ですので、ご相談ください。
妊婦の乳がん検診
最近では晩婚化が進み、それにつれて初回妊娠年齢も上昇しています。2022年の厚生労働省人口動態調査ではわが国の平均初産年齢は30.9歳で、第一子の21%が35歳以上の母から出生しています。一方で乳がんは35歳を越したあたりから増加しはじめますので、乳がんを持った状態で妊娠する女性が増えています。しかし、妊娠中はマンモグラフィなどの放射線を使用する検査ができない上に、妊娠週数が進むにつれ、授乳に備えて乳房が大きくなり、超音波検査の画像がわかりづらくなってきます。出産後も授乳を行うと乳がんに気づくのが大幅に遅れ、進行した状態でやっと気づくことになります。
妊娠が判明する妊娠前期であれば、乳房の変化はまだ起こっていないため、放射線を使用するマンモグラフィーは撮影できませんが、超音波検査は通常の精度で行うことが可能です。
また、万が一妊娠中に乳がんが発見された場合でも、妊娠中期になれば胎児に悪影響を与えずに全身麻酔の手術や抗癌剤治療を行うことができますので、妊娠を継続しながら乳がんの治療が可能です。
当科では妊娠20週までの妊婦さんを対象として、超音波検査による乳房のチェックを行っています。生まれ来る子供のためにも是非検診を受けて下さい。当院に通院している妊婦さんはもちろんのこと、他院に通院している方でも検診を受けて頂くことができますのでお問い合わせください。
外来担当表
月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 | 土曜日 | |
---|---|---|---|---|---|---|
一診 | 高島 (午前・午後) | 緩和ケア外来 (午後) | 高島 (午前・午後) |
施設認定
- 日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会エキスパンダー/インプラント実施施設
- 日本乳癌学会関連施設
スタッフ紹介
高島 勉
部長
専門分野
乳腺
専門医
日本外科学会指導医、専門医
日本乳癌学会指導医、乳腺専門医
日本臨床腫瘍学会指導医、がん薬物療法専門医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会乳房再建用エキスパンダー/インプラント責任医師
日本消化器外科学会認定医
診療実績
更新日
2023年6月1日