西和医療センターにロボット支援手術機器・ダヴィンチがやってきた

泌尿器科 副部長 穴井 智

2024年1月より西和医療センターにロボット支援手術機器ダヴィンチが導入されました。ダヴィンチは米国で開発された手術支援ロボットで、最初は、泌尿器科の前立腺がんに対する手術でダヴィンチが使用されてきました。そこから腎や膀胱がんに対する手術にも適応は拡大され、最近は消化器外科や婦人科領域でも行われてきています。

もともと手術と言えば、大きくお腹にメスを入れる開腹手術をイメージされるかと思いますが、患者さんの負担をできる限り小さくするため、お腹に小さな穴をあけて、その穴からカメラや鉗子(臓器を持ったり組織を切ったりする棒状の道具)を入れて行う腹腔鏡手術が行われるようになり、当センターでもこれまでは腹腔鏡手術を多数行ってきました。しかしながら、腹腔鏡手術は、組織同士を縫い合わせる操作(縫合)の難易度が高いという問題点がありました。一方、ロボット手術では、鉗子操作が、腹腔鏡で行うよりも、範囲が広く容易であり、かつ3D画像で腹腔内を観察しながら手術が行えるので、より繊細で精度の高い手術を安全に行うことができます。

ロボット支援手術とは

ペイシェントカート
コンソール
ビジョンカート

【ダヴィンチ手術システム Xi(エックス・アイ)】

手術では、病気の臓器に到達するために、周囲の臓器をより分けた上で、最終的に病気の部分を摘出し、摘出した臓器の機能が損なわれる場合は、その機能を補う処置が必要になります。開腹手術では、身体に切開を入れて、お腹を開いた状態で病気の場所に到達するために、腸などの内臓を触ったりするので、それらが長時間空気にさらされたりして、手術後の感染の一因となることもあります。また、身体の切開の傷が大きいほど、術後の傷の痛みも強くなりますし、回復の妨げになります。少しでも患者さんの負担を軽減するために、できるだけ身体の傷を小さくしようと、これまで小切開手術(従来よりも小さな手術創で行う手術)や腹腔鏡手術が行われてきました。また、腹腔鏡手術では、体腔内を拡げるためにお腹の中に炭酸ガスを入れながら手術を行うのですが、ガスを注入する圧力により、小さな血管からの出血を抑えることができ、より出血量が少なく手術が行えるようになりましたし、体腔内に内視鏡を入れて拡大した視野で手術を行うようになり、より精密な手術が可能となってきました。

術者がコンソールを操作する様子
レンズ越しに3Dで体腔内を観察

ロボット手術と言っても、勝手にロボットが手術をするわけではありません。身体に小さな穴を数か所開けてロボットの腕(アーム)とカメラ(内視鏡)を入れて、少し離れたところに術者がコンソール(操作機器)で、カメラで体腔内を観察しながら、ロボットのアームを操作して、腹腔鏡手術を行います。
コンソールから身体の中を観察するときは、約10倍に拡大された視野になります。さらに、3Dで立体的に臓器を見ることができるので、最近、小生も少しずつ老眼になって物が見づらくなってきていますが、問題なく、大きな視野で手術を行うことができます。

コンソールでは1つのカメラと3本のロボットアームを操作して手術を行います。ロボットアームの鉗子の先端は1㎝弱ほどの大きさですので、骨盤の奥深くや、臓器の裏側の狭いところにも容易にロボットアームを進めていくことができます。さらに、ロボットアームの可動範囲は、人の関節の関節可動域よりも大きく、人の手の届かないようなところでも、これまで、開腹手術や腹腔鏡手術では非常に難しい場所での縫合操作などを行うことができます。

泌尿器科で扱う、前立腺や腎、膀胱などの臓器は、骨盤や身体の深い場所にありますので、まさにダヴィンチが最大限活用できるといえます。

泌尿器科で行うロボット支援手術の対象疾患

1. 前立腺がんに対するロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術

前立腺がんについて

直腸診、前立腺腫瘍マーカー(PSA)、MRIなどで異常が認められた場合、生体検査で前立腺組織を採取し、前立腺がんと診断します。CT検査や骨シンチ検査の結果から、転移を認めない場合、手術治療が適応となります。
転移のない前立腺癌では多くの場合が無症状です。

手術について

転移のない前立腺がんの治療法であり、前立腺(精嚢も含む)をすべて摘出し、前立腺がんの根治を目的としています。前立腺がんの根治療法として、手術以外に放射線療法がありますが、手術の長所として、摘出した病理結果から、より細かな病状の把握が可能となります。

病理結果(顕微鏡での診断)により、手術前には分からなかった情報(微小リンパ節転移の有無や精嚢・膀胱への浸潤など)が得られることがあります。結果により、早期の追加治療(放射線療法やホルモン療法)の必要性を検討することが可能となり、手術の結果に応じて、より細かな対応が可能となります。

放射線療法後には数ヶ月から数年後に血尿や直腸出血が見られることがあります。手術の場合、術後の尿失禁と鼠径ヘルニアの発生が高くなりますがそれ以外の合併症が起こることはほとんどありません。また放射線療法後には2次発癌が問題になることがありますが、手術療法ではこの問題はありません。

ロボット支援前立腺全摘除術では腹部に6か所の穴(直径5~12mm)をあけ、ロボットアームや補助用鉗子を用いて、手術を行います。一方、開放手術では臍から恥骨まで10数cmの皮膚を切開します。

前立腺と精嚢を周囲の組織から剥がし、膀胱や直腸との間を切断します。前立腺の両脇には神経血管束という勃起や尿道括約筋を調整する神経が走行していますが、開腹手術に比べ、拡大した視野で出血を起こしにくいロボット手術のほうが、神経血管束を温存することが容易です。最後に尿道を切断し、前立腺と精嚢を一塊にして摘出します。止血を確認した後、膀胱と尿道を吻合します。

開腹手術や従来の腹腔鏡手術では、骨盤の一番深いところで行う膀胱尿道吻合の難易度が高く、術後、吻合不全や吻合部狭窄などの合併症をきたす可能性があります。一方、ロボット手術の場合は、直視下に確実に膀胱尿道吻合を行うことが可能です。

2. 腎がんに対するロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術および腎摘除術

腎がんについて

腎がんに対する治療の第一選択は手術療法です。転移のある腎がんでも、腫瘍の大きさや全身状態によっては手術療法が選択されます。
手術には腎摘除術と腎部分切除術があり、それぞれの手術に開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援手術があります。

(腎摘除術と腎部分切除術の違い)

腎摘除術腎部分切除術
治療成績ステージが同じなら再発率や生存率は同じ
安全性出血量、入院期間は同じ。手術時間は部分切除術の方が長い
問題点<腎機能障害> 単腎になると5年後には15-20%腎機能が悪化するといわれている。腎機能障害から心血管系疾患の危険性が高くなる。<残存腎への再発> 1%以下とされているが、切除断端や腎がんのタイプによってはリスクが高くなる。 <腎摘除術にはない合併症> 切除面からの出血や尿漏、仮性動脈瘤。腎動脈を一時的に遮断するため腎機能低下の可能性あり

腎摘除術は、腎臓をすべて取り出す手術です。一方、腎部分切除術は、腫瘍部分のみを切除し、正常部分は温存されます。
最近の研究で、腎摘除術後、長期間経過すると腎機能低下をきたし、そのことに起因する合併症での死亡率が上昇することが報告されています。そのため、最近では、腎臓の温存が可能な腫瘍に対しては腎部分切除術を行う傾向があります。
技術的には腎摘除術の方が容易であり、腎部分切除術は切除面からの出血や尿漏れなど、腎部分切除術に特有の合併症が発生する可能性があります。また、残存腎への再発の可能性も生じます(1%以下)。

一般的に小さな腫瘍(4cm以下)に対して、腎部分切除術が適応となります。ただし、小さな腫瘍であっても、腫瘍が腎門部(血管や尿管が出入りする中心部分)に存在する場合や埋没型(外方に飛び出していない腫瘍)であった場合、手術に伴う合併症リスクが高くなるため、腎部分切除術ではなく腎摘除術が選択されることがあります。また、小さな腫瘍であっても、腫瘍が腎静脈に浸潤している場合などは腎部分切除術が不可能となります。
一方、単腎(腎臓が一つしかない)の方や両側同時性症例、腎機能低下症例、ホンヒッペルリンドウ病(腎がんが多発・再発しやすい病気)などの場合は、個々の患者に応じて、恩恵とリスクを十分に検討し、手術方法を選択することになります。

手術について

腎部分切除術を行う場合、腫瘍の大きさや場所、腎の中央部の血管や尿管が集まっている腎洞と呼ばれる部位にどれくらい腫瘍が近くにあるかどうかなどで、手術の難易度が変化します。難易度の高い腫瘍は、従来の腹腔鏡下腎部分切除術ではなく開腹手術で行われてきましたが、ロボット手術であれば難易度の高い腎部分切除術を行うことが可能です。

部分切除術を行った腎の切除面には、血管や尿路が開放し、縫合操作により修復を行うのですが、ロボット手術のほうが、容易に血管や尿路の縫合を行うことができるためです。
また、腎摘除術に関しても、腎静脈や下大静脈まで腫瘍が拡がっている場合は、腹腔鏡では対応できずに開腹手術で下大静脈の合併切除などを行ってきましたが、ロボット手術では、身体の中に炭酸ガスを注入(気腹)しながら手術を行えるので、出血量を軽減し、より低侵襲な手術を行うことが可能です。

3. 腎盂・尿管がんに対するロボット支援腹腔鏡下腎尿管全摘除術・膀胱部分切除術

腎盂または尿管がんについて

右の図のように、腎盂、尿管、膀胱、尿道はひとつながりとなっており、腎臓でつくられた尿は腎盂から尿管を通って膀胱まで流れていきます。この尿の流れを総称して尿路といい、この尿路に発生した腫瘍を部位によって、腎盂腫瘍、尿管腫瘍(上部尿路腫瘍)や膀胱腫瘍と呼びます。腫瘍が良性ではなく、悪性の場合は「癌」と呼ばれます。 尿の出口に近い膀胱がんと比較して、腎盂や尿管にできる癌は発見が遅れる傾向があり、進んだ状態でみつかることも比較的多いことが知られています。

腎盂または尿管がん(悪性腫瘍)が疑われる場合は、腎尿管全摘術と膀胱部分切除術という手術が必要になります。レントゲン検査や内視鏡検査でも腫瘍の形が見えなくても、尿細胞診で陽性にでるなど尿路に腫瘍の存在が疑われる場合(上皮内癌が疑われる)もこの手術が必要となることもあります。
尿路の壁は内から外に向かって粘膜・粘膜下層・筋層・周囲脂肪という構造になっています。腫瘍がどこまで浸潤転移しているかによって、評価します。摘出検体を病理検査に提出し、その結果で追加の治療(全身抗がん剤治療など)を行うことがあります。

手術について

初めに腎臓を遊離して、尿管とひとかたまりにして膀胱まで追っていき、膀胱の壁の一部と一緒に摘出します(図2、左腎尿管全摘術の場合)。腫瘍の位置や大きさに応じてリンパ節を摘出します。腎盂腫瘍の場合副腎も同時に摘出することがあります。腎臓を摘出する方法には従来から行われていた開放手術と近年保険適応になった腹腔鏡下手術があります。これらは腫瘍の大きさや場所などにより決定します。腎臓は左右に1つずつあり、片方の腎臓を摘出してももう一方の腎臓が正常に機能すれば生活上の制限はほとんどありません。ただし手術前から腎機能が悪い人は注意が必要です

腎尿管全摘+膀胱部分切除術は、開腹手術では腎と尿管を摘出するために、肋骨の下から臍に向かって20㎝ほどの切開(腰部斜切開)と膀胱を部分切除するために、下腹部の臍下に8㎝ほどの切開(下腹部正中切開)が必要になります。腹腔鏡手術の場合、腎・尿管摘出に肋骨の下側に4つのポート(手術用の穴)を作成しますが、膀胱部分切除術ならびに摘出した腎尿管を体外に取り出すために下腹部正中切開は必要です。女性に限られますが、ロボット手術では、腎尿管全摘・膀胱部分切除をすべて体腔内で行い、さらに臓器の摘出を、膣を切開して行い、摘出後に膣を縫合することも可能です。

4. 膀胱がんに対するロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術・尿路変更術

膀胱がんについて

膀胱壁は内から外に向かって粘膜・粘膜下層・筋層・周囲脂肪という構造になっています。一般に粘膜内にとどまっている筋層非浸潤がん(T1までの浅いもの)は内視鏡(経尿道的膀胱腫瘍切除術)で切除可能とされていますが、腫瘍が筋層内にまで入り込んでいる筋層浸潤がん(T2a以上の深いもの)や T1までの浅いものの中でも内視鏡で切除できないような病気では膀胱を摘出すること(膀胱全摘術)が必要とされています。

手術について

膀胱全摘術は、男性と女性で摘出する範囲が異なってきます。膀胱だけでなく癌が浸潤しやすい周囲の臓器を合併切除することで根治率を高めることができます。

膀胱全摘術は膀胱・前立腺と精嚢を周囲の組織から剥がし、直腸との間を切断します。前立腺全摘術の場合と同様に、膀胱・前立腺の両脇には神経血管束という勃起や尿道括約筋を調整する神経が走行していますが、開腹手術に比べ、拡大した視野で出血を起こしにくいロボット手術のほうが、神経血管束を温存することが容易です。

さらに、膀胱摘出後は、尿を体外に排出するために尿路変向術が必要になります。最も一般的に行われているのは、①回腸導管です。回腸と呼ばれる小腸の一部を用いて尿を体外に誘導する管(=回腸導管といいます)を作成し、体外に(右側腹部のストーマ周囲皮膚に)パックを張って集尿します。体外に集尿パックなどを使用しない方法に、②自然排尿型代用膀胱(新膀胱)があります。回腸と呼ばれる小腸の一部(約60cm前後)を用いて新膀胱を作成し、それに腎臓から尿をはこぶ管(=尿管)を吻合します。その後、新膀胱を尿道(陰茎の方の尿の通り道)へ吻合します。この方法では、術後ご自身の尿道から排尿が可能になるように尿の通り道を再建(尿路変向)していますが、排尿の神経はありませんので尿意や排尿反射はありません。したがって自分で腹圧をかけ、定時の時間になったら(2~4時間毎)ご自身で排尿して頂かないといけません。ご自身による排尿がうまくできない場合には自己導尿や尿道カテーテル留置、膀胱瘻造設が必要になる可能性があります。

開腹した所見上、回腸導管や新膀胱の作成が困難、不可能な場合、尿管の長さが足りず、回腸で作成した新膀胱に吻合できない場合は、①回腸導管や③尿管皮膚瘻(尿管を1本ずつ直接皮膚へだし、その周りにパックを貼って尿を集める)となる可能性もあります。(尿管皮膚瘻の場合にはパックが2つになります。2つの尿管を1つに合わせることができれば1つのパックになることもあります。)
以上のような尿路変向術は、従来は開腹で体外にいったん腸管を出して手術を行ってきましたが、ロボット手術では、腸管の切開や縫合を体腔内で行うことが可能となり、腸管が外気に触れることなく、感染のリスクも軽減し、腸管への手術操作に伴う腸管浮腫も軽減し、より低侵襲な手術を行うことが可能となります。

最後に

ロボット手術は、高難易度の手術であっても、拡大視野で繊細に行うことで、より低侵襲で安全に行うことができ、泌尿器科領域の多くの手術で応用可能です。これまでは奈良県内の限られた施設でしか行われていませんでしたが、当院でも安全に導入していくよう、精進してまいります。

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